ファンドやポートフォリオの収益率を測定する方法には、大きく分けて時間加重収益率と金額加重収益率がある。 どちらも投資成果を表す収益率だが、測定しようとしているものが異なる。 簡単に整理すると、
時間加重収益率(TWRR) → 外部キャッシュフローの金額・タイミングによる影響を取り除いて運用成果を測る
金額加重収益率(MWRR) → 資金投入・回収の金額・タイミングを含めて投資成果を測る
という違いがある。
一般的な公募投資信託では、投資家による設定・解約のタイミングをファンドマネージャーが基本的にコントロールできないため、その影響を取り除く時間加重収益率が適している。
プライベート・エクイティなどでは、キャピタルコールや回収・分配のタイミングにも運用者の判断が関わるため、資金投入・回収の金額とタイミングを反映できる金額加重収益率が重要な指標となる。
本記事では、両者の計算の考え方と、どのような場面で使い分けるのかを整理する。
1. 時間加重収益率とは
時間加重収益率(Time-Weighted Rate of Return:TWRR)は、投資期間中に発生する追加設定・解約・入出金などの外部キャッシュフローの金額やタイミングによる影響を取り除いて、運用成果を測定する収益率である。
例えば、
100を運用 → 第1期間に+10%
第1期間終了後に100を追加投資 → 第2期間に-10%
というケースを考える。
時間加重収益率では、100が追加投資されたこと自体が収益率に影響しないよう、外部キャッシュフローの前後で期間を区切って収益率を計算する。 この場合、
第1期間:+10% 第2期間:-10%
となるため、各期間の収益率を幾何リンクして、
(1+10%) × (1-10%) - 1 = -1.00%
となる。 時間加重収益率では、 「各期間にいくら投資されていたか」 ではなく、 「各期間に運用が何%の成果を上げたか」 をつないで評価する。 一般的な公募投資信託では、投資家による追加設定・解約のタイミングをファンドマネージャーが基本的にコントロールできない。 そのため、こうした外部キャッシュフローの影響を取り除き、ファンドや運用戦略の成果を評価する時間加重収益率が適している。 時間加重収益率と日次評価法の詳しい計算方法はこちら
2. 金額加重収益率とは
金額加重収益率(Money-Weighted Rate of Return:MWRR)は、投資期間中に発生した資金投入や回収について、その金額とタイミングを反映して投資成果を測定する収益率である。 金額加重収益率を求める代表的な方法が、IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)である。 プライベート・エクイティなどでは、キャピタルコールや回収・分配のタイミングにも運用者の判断が関わるため、資金投入・回収の金額とタイミングを反映できるIRRが重要な指標となる。 IRRでは、投資家から見た資金拠出をマイナス、回収や評価時点の残存資産価値をプラスのキャッシュフローとして並べ、それらの現在価値の合計が0になる収益率を求める。 先ほどと同じ、
100を運用 → 第1期間に+10%
第1期間終了後に100を追加投資 → 第2期間に-10%
というケースを、今度は金額加重収益率の視点から見てみる。
最初の100は、
100 × 1.10 = 110
となる。
ここで100を追加投資すると、
110 + 100 = 210
となる。
その後10%下落すると、
210 × 0.90 = 189
となる。
この投資では、
+10%だった第1期間 → 100が投資されていた
-10%だった第2期間 → 210が投資されていた
という違いがある。
つまり、利益が出た期間よりも、損失が出た期間の方が大きな金額が投資されていた。 時間加重収益率では、この投資金額の違いによる影響を取り除く。 一方、金額加重収益率では、この違いをそのまま収益率へ反映する。 投資家から見たキャッシュフローは、
投資時:-100 1年後:-100 2年後:+189
となる。
IRRでは、
-100 - 100 ÷ (1+r) + 189 ÷ (1+r)² = 0
となる収益率rを求める。
この場合、
IRR ≒ -3.71%
となる。 つまり金額加重収益率では、「いつ、いくら投資し、いつ、いくら回収したか」を一つの収益率で表している。 同じ運用でも、
時間加重収益率:-1.00% 金額加重収益率:約-3.71%
と異なる結果になる。 なお、評価時点で投資資産をすべて売却していない場合には、その時点の評価額を最終的なプラスのキャッシュフローとして計算に含める。 プライベート・エクイティでは、評価日時点で残っている投資資産の評価額などを含めてIRRを計算する。
2.1 実際の日付で計算する場合
ここでは説明を分かりやすくするため、
投資時 1年後 2年後
という一定間隔でキャッシュフローを並べた。 しかし、実際の投資では、
2024年2月15日:資金拠出 2024年11月8日:追加拠出 2026年3月20日:回収
というように、キャッシュフローが不規則な日付で発生することも多い。 この場合には、それぞれの実際の日付間隔を使ってIRRを計算する。 Excelでは、一定間隔のキャッシュフローにはIRR関数、不規則な日付で発生するキャッシュフローにはXIRR関数を利用できる。
3. 時間加重収益率と金額加重収益率の違い
両者の違いを整理すると、次のようになる。
| 項目 | 時間加重収益率 | 金額加重収益率 |
|---|---|---|
| 英語 | Time-Weighted Rate of Return(TWRR) | Money-Weighted Rate of Return(MWRR) |
| 主な目的 | 外部キャッシュフローの影響を取り除いて運用成果を測る | 資金投入・回収の金額とタイミングを含めて投資成果を測る |
| 外部キャッシュフローの金額・タイミング | 原則として影響を取り除く | 収益率に反映する |
| 代表的な計算方法 | サブ期間収益率の幾何リンク | IRR(不規則な日付ではXIRR型の計算) |
| 主な利用場面 | 公募投資信託、投資一任、運用評価など | プライベート・エクイティ、ベンチャーキャピタル、不動産、投資家自身の投資成果など |
最も重要なのは、時間加重収益率は外部キャッシュフローの影響を取り除くのに対し、金額加重収益率は資金投入・回収の金額とタイミングを収益率へ反映するという点である。 ただし、「運用者のパフォーマンスを評価するなら必ず時間加重収益率」という意味ではない。 資金投入・回収のタイミング自体を運用成果の一部として評価するかどうかによって、適切な指標は異なる。
4. なぜ公募投資信託では時間加重収益率が使われるのか
一般的な公募投資信託では、投資家から日々設定・解約が発生する。
例えば、
今日100億円設定された 明日50億円解約された
といった資金流出入があっても、その金額やタイミングは通常ファンドマネージャー自身が決めているわけではない。 こうした資金流出入によって収益率が左右されると、ファンドマネージャーや運用戦略の成果を適切に評価しにくくなる。 そのため、公募投資信託では、投資家による設定・解約の影響を取り除いた時間加重収益率を用いて、その期間の運用成果を測定する。
5. なぜプライベート・エクイティでは金額加重収益率・IRRが使われるのか
一方、プライベート・エクイティでは事情が異なる。 投資家がコミットメントした資金を最初からすべて払い込むのではなく、運用者が投資案件に応じてキャピタルコールを行い、必要な資金を集めて投資する。その後、投資先企業の売却などによって資金を回収し、投資家へ分配する。 このため、キャピタルコールや回収・分配のタイミングにも、運用者の判断や投資成果が関わる。 例えば、
100を投資して3年後に150を回収
した場合と、
100を投資して10年後に150を回収
した場合では、どちらも投資倍率は1.5倍である。 しかし、3年間で1.5倍になった場合の方が高い収益率となる。 実際のプライベート・エクイティでは、複数回のキャピタルコールや分配が発生し、評価時点で投資先が残っている場合にはその残存資産価値も含めて評価する。 そのため、資金投入・回収の金額とタイミングを反映するIRRが、ファンドや運用者のパフォーマンスを評価する重要な指標として利用される。
6. 投資家自身の収益率を見る場合も金額加重収益率
金額加重収益率はプライベート・エクイティだけで利用される指標ではない。 例えば、ある投資家が同じ投資信託について、
最初に100万円購入 相場下落時に200万円追加購入 その後50万円売却
していたとする。
一方、別の投資家は、
最初に300万円購入 その後は売買しなかった
とする。 同じ評価期間の同じファンドについて見る限り、ファンド自体の時間加重収益率は同じである。 しかし、それぞれの投資家が実際に得た投資成果は異なる。 このため、 「ファンド自体の運用成果を、投資家ごとの売買タイミングの影響を除いて見たい」 場合には時間加重収益率、 「自分がいつ、いくら投資したかまで含めて、実際の投資成果を見たい」 場合には金額加重収益率、 という使い分けになる。
7. どちらを使うべきか
時間加重収益率と金額加重収益率は、どちらが優れているという関係ではない。 重要なのは、資金投入・回収の金額やタイミングによる影響を評価から取り除くべきか、それとも投資成果の一部として反映すべきかである。
外部キャッシュフローの影響を取り除いて運用成果を測る → 時間加重収益率
資金投入・回収の金額・タイミングを含めて投資成果を測る → 金額加重収益率・IRR
と考えると分かりやすい。
8. まとめ
時間加重収益率は、追加設定・解約・入出金などの外部キャッシュフローの影響を取り除いて運用成果を測定する。 一方、金額加重収益率は、資金投入・回収の金額とタイミングを反映して投資成果を測定し、その代表的な計算方法がIRRである。 一般的な公募投資信託では時間加重収益率が適している一方、プライベート・エクイティなどでは資金投入・回収のタイミングも投資成果に関わるため、金額加重収益率・IRRが重要となる。 それぞれの具体的な計算方法については、以下の記事で詳しく解説する。
