本記事では、幾何リンク計算(Geometric Linking)(単に「リンク計算」とも呼ぶ)についてまとめる。ファンドのパフォーマンス計測で広く用いられる基本的な計算手法である。
計算方法
複数期間の収益率を連結して累積収益率を算出する計算式である。各期間の収益率に1を足してすべて掛け合わせ、最後に1を引く。
3日間の累積収益率を求める計算式と数値例
基本式は以下の通りである。
(1 + 1日目の収益率) × (1 + 2日目の収益率) × (1 + 3日目の収益率) - 1
例えば、日次収益率が「1日目:+2%」「2日目:-1%」「3日目:+3%」だった場合、数値を当てはめると以下の計算となる。
(1 + 0.02) × (1 - 0.01) × (1 + 0.03) - 1 = 1.02 × 0.99 × 1.03 - 1 = 1.040094 - 1 = +0.040094(パーセント換算で +4.01%)
期間が月次や年次、あるいはさらに長い日数になっても、同じように「1を足して掛け合わせ、最後に1を引く」処理を行う。
計算手順
| ステップ | 処理内容 | 意味 |
|---|---|---|
| 1. 資産倍率にする | 各期の収益率に 1 を足す(例:+5% なら 1 + 0.05 = 1.05) | 元本1に対する期末の資産倍率 |
| 2. 倍率を掛け合わせる | 各期の倍率をすべて掛け算する | 期間全体を通した最終的な資産倍率 |
| 3. 収益率に戻す | 掛け合わせた結果から 1 を引く | 元本1を差し引いた純粋な増減率 |
どんなときに使うか
日次から月次、月次から四半期・年次・設定来など、複数期間の収益率をまとめて累積収益率を算出する際に使用する。パフォーマンス計測や要因分析など、資産運用の現場で広く用いられる基本的な計算手法である。特に時間加重収益率(TWR)では、各評価期間の収益率を幾何リンクすることで、複数期間にわたる運用成果を算出する。
なお、分配金再投資基準価額などが手元にある場合は、各期のリターンを掛け合わせなくても『(期末値 ÷ 期初値)- 1』で累積収益率を直接求めることができる(詳細は別章で解説)。幾何リンクは、すでに算出された日次・月次などの収益率データのみを使って長期リターンを合成する場合や、ベンチマークリターンの合成など、幅広い場面で用いられる計算である。
計算の仕組み(100万円での残高推移例)
幾何リンクが必要となる理由は、各期の運用結果によって手元の資産残高が増減し、その増減した後の残高に対して次の期間の収益率がかかる(複利効果が働く)ためである。各期の収益率を単純に足し合わせた場合、実際の資産残高推移と乖離が生じる。
これは評価の単位が日次・月次・年次のいずれであっても全く同じである。
パターン1:日次(3日間の残高推移)
元本100万円で運用を開始したとする。
1日目(+1.0%):100万円の1%(+1万円)が増加し、残高は101万円となる。 2日目(+2.0%):増えた後の101万円に対して2%(+2.02万円)が増加し、残高は103.02万円となる。 3日目(-2.0%):103.02万円に対して2%(-2.0604万円)が減少し、残高は100.9596万円となる。
3日間の実際の運用成果は、100万円が約100.96万円になったため「+0.96%」である。
| 計算手法 | 計算式 | 3日間の結果 | 実際の残高との整合 |
|---|---|---|---|
| 単純な足し算 | 1.0% + 2.0% + (-2.0%) | +1.00% | 不整合(約404円分過大評価) |
| 幾何リンク | (1 + 0.01) × (1 + 0.02) × (1 - 0.02) - 1 | +0.96% | 整合(約100.96万円と一致) |
日々のわずかな損益であっても翌日の運用残高に反映されるため、日次であっても足し算ではズレが生じる。
パターン2:月次(3ヶ月間の残高推移)
元本100万円で運用を開始したとする。
1ヶ月目(+10.0%):100万円の10%(+10万円)が増加し、残高は110万円となる。 2ヶ月目(-10.0%):110万円に対して10%(-11万円)が減少し、残高は99万円となる。 3ヶ月目(+5.0%):99万円に対して5%(+4.95万円)が増加し、残高は103.95万円となる。
3ヶ月間の実際の運用成果は、100万円が103.95万円になったため「+3.95%」である。
| 計算手法 | 計算式 | 3ヶ月の結果 | 実際の残高との整合 |
|---|---|---|---|
| 単純な足し算 | 10.0% + (-10.0%) + 5.0% | +5.00% | 不整合(約1.05万円分過大評価) |
| 幾何リンク | (1 + 0.10) × (1 - 0.10) × (1 + 0.05) - 1 | +3.95% | 整合(103.95万円と完全一致) |
足し算では「+5.0%(105万円相当)」に見えるが、手元残高は103.95万円にしかならない。
パターン3:年次(3年間の残高推移)
元本100万円で運用を開始したとする。
1年目(+20.0%):100万円の20%(+20万円)が増加し、残高は120万円となる。 2年目(+10.0%):120万円に対して10%(+12万円)が増加し、残高は132万円となる。 3年目(-10.0%):132万円に対して10%(-13.2万円)が減少し、残高は118.8万円となる。
3年間の実際の運用成果は、100万円が118.8万円になったため「+18.80%」である。
| 計算手法 | 計算式 | 3年間の結果 | 実際の残高との整合 |
|---|---|---|---|
| 単純な足し算 | 20.0% + 10.0% + (-10.0%) | +20.00% | 不整合(1.2万円分過大評価) |
| 幾何リンク | (1 + 0.20) × (1 + 0.10) × (1 - 0.10) - 1 | +18.80% | 整合(118.8万円と完全一致) |
日・月・年の単位に関係なく、「前の期間で増減した後の残高に対して、次の増減率がかかる」という事実自体は全く変わらない。そのため、どの時間軸であっても計算方法はすべて同じ「1を足して掛け合わせ、最後に1を引く」となる。
Excelでの実装例
月次収益率が並んだセル範囲から四半期(3ヶ月間)の累積収益率を求める構成例である。
シート構成例
| セル | A列(年月) | B列(月次収益率) |
|---|---|---|
| 1 | 年月 | 月次収益率 |
| 2 | 2026年1月 | 5.0% |
| 3 | 2026年2月 | -2.0% |
| 4 | 2026年3月 | 3.0% |
| 5 | 四半期累積 | =PRODUCT(1+B2:B4)-1 |
※セルB2〜B4は表示形式をパーセントに設定しているが、セル内部の実際の数値は小数(0.05、-0.02、0.03)である。
※セルB5の計算結果は 0.05987... となり、表示形式をパーセントにすることで +5.99% と表示される。
関数の選択肢
1. PRODUCT関数
=PRODUCT(1+B2:B4)-1
幾何リンクの基本式である「各収益率に1を足して掛け合わせ、最後に1を引く」という計算を、そのままExcel上で表現できる方法である。Excelのバージョンによっては配列数式(Ctrl + Shift + Enter)としての確定が必要となる場合がある。
2. 作業列 + PRODUCT関数
C列に作業列を設け、各行で「1 + 収益率」(例:C2に =1+B2)を求めておき、その積をPRODUCT関数で計算する方法である。
=PRODUCT(C2:C4)-1
各期の資産倍率が表の上で目視できるため、計算過程をシートに残したい場合によく使われる。
3. FVSCHEDULE関数
=FVSCHEDULE(1,B2:B4)-1
元本1に対して利率の範囲(B2:B4)を複利適用した将来価値を算出する関数である。作業列を使わずに1セルで計算できる別の方法である。
