ファンドやポートフォリオの運用成果を測定する際、資産運用会社で広く用いられているのが時間加重収益率(Time-Weighted Rate of Return:TWRR)である。時間加重収益率は、追加設定・一部解約・入出金などの外部キャッシュフローの影響を取り除き、運用そのものによってどれだけ資産価値が増減したかを測定するための収益率である。
理論的には、外部キャッシュフローが発生するタイミングなどで評価期間を区切り、それぞれのサブ期間の収益率を幾何リンクすることで算出する。一方、資産運用会社が運用する一般的なファンドでは、毎営業日に純資産総額を算出しているため、実務では毎営業日の収益率を算出し、それを幾何リンクする日次評価法(日次厳密法)によって時間加重収益率を求めるケースが多い。
そのため、日次評価を行っている一般的なファンドについては、アセマネ実務における時間加重収益率を、「日々の純資産総額と外部キャッシュフローから日次収益率を算出し、それを幾何リンクして月次・年次等のパフォーマンスを求める方法」と考えると分かりやすい。
1. 時間加重収益率の基本
1.1 時間加重収益率とは
ファンドの運用期間中には、投資家からの資金流入や資金流出が発生する。例えば、100億円を運用しているファンドが10%上昇して110億円になった直後に、新たに100億円の資金が流入したとする。その後、運用資産が10%下落した場合、期末の資産額は189億円となる。
単純に期首と期末だけを比較すると、
189億円 ÷ 100億円 - 1 = +89%
となる。しかし、当然ながらこのファンドが89%の運用収益を上げたわけではない。途中で100億円の資金流入が発生しているためである。
そこで、資金流入が発生した時点で期間を区切る。資金流入前の収益率は、
110 ÷ 100 - 1 = +10%
資金流入後の収益率は、
189 ÷ 210 - 1 = -10%
となる。
この2期間の収益率を幾何リンクすると、
(1+10%) × (1-10%) - 1 = -1.0%
となる。
これが時間加重収益率の基本的な考え方である。途中でどれだけ大きな資金流入・資金流出が発生したとしても、その影響を取り除き、運用による収益率だけを測定する。
1.2 なぜ時間加重収益率を使うのか
ファンドマネージャーは、通常、投資家による設定・解約のタイミングや金額を自由に決めることができない。運用成績とは関係なく大規模な設定が発生すれば純資産総額は増加し、大規模な解約が発生すれば純資産総額は減少する。
これらをそのまま運用成果として扱ってしまうと、ファンドマネージャーや運用戦略そのものの成果を適切に評価できない。そのため、ファンドやポートフォリオのパフォーマンスを評価する場合には、外部キャッシュフローの影響を取り除く必要がある。時間加重収益率は、そのための収益率である。
1.3 外部キャッシュフローとは
ここでいう外部キャッシュフローとは、設定・解約や顧客からの入出金など、ポートフォリオの外部との間で発生する資金移動を指す。例えば、設定による資金流入、解約による資金流出、顧客からの追加拠出、顧客への資金返還などが外部キャッシュフローに該当する。
一方、株式の配当金、債券の利息、保有資産の売却による損益、保有資産の評価損益などは、ポートフォリオの運用によって生じた収益・損失であり、外部キャッシュフローには含めない。
2. 時間加重収益率の計算原理
2.1 外部キャッシュフロー発生時に期間を区切る
時間加重収益率では、外部キャッシュフローが発生するタイミングなどで評価期間を区切り、それぞれのサブ期間について収益率を算出する。例えば、期首から期末までの間に1回の大きな資金流入がある場合、その資金流入前と資金流入後を別々の期間として収益率を計算する。
こうすることで、資金流入・流出による純資産総額の増減を運用収益から切り離すことができる。
2.2 サブ期間収益率を幾何リンクする
各サブ期間の収益率をr₁、r₂、r₃、……、rₙとすると、全期間の時間加重収益率は次のようになる。
時間加重収益率 = (1+r₁) × (1+r₂) × …… × (1+rₙ) - 1
つまり、各サブ期間の収益率を幾何リンクしたものが時間加重収益率である。
例えば、2期間の収益率が+10%と-10%であれば、単純合計では0%となるが、幾何リンクすると、
(1+10%) × (1-10%) - 1 = -1.0%
となる。
複数期間の収益率をつなぎ合わせる幾何リンク計算については、別記事「幾何リンク計算」で詳しく解説する。
2.3 TWRRは必ずしも日次計算ではない
時間加重収益率の基本原理は、外部キャッシュフローの影響を除いたサブ期間収益率を計算し、それらを幾何リンクすることである。したがって、時間加重収益率だから必ず毎日収益率を算出しなければならない、というわけではない。
一方、実際の資産運用会社のファンドでは、毎営業日に時価評価が行われ、純資産総額や設定・解約額も日次で把握できる場合が多い。そのため、日次評価を行っているファンドでは、毎営業日を一つの評価期間として日次収益率を算出し、それらを幾何リンクする方法が実務上広く用いられている。
3. アセマネ実務における日次評価法(日次厳密法)
3.1 日次評価法(日次厳密法)とは
日次で時価評価されるファンドでは、時間加重収益率の算出に日次評価法(Daily Valuation Method)が用いられる。日本の年金・資産運用実務では、日次の時価とキャッシュフローを用いて時間加重収益率を計算することから、日次厳密法と呼ばれることも多い。
「日次評価法」と「日次厳密法」は厳密には呼び方の観点がやや異なるが、実務上は同じ計算方法を指して用いられることが多い。日次評価法は「毎営業日評価する」という評価頻度に着目した呼称であり、日次厳密法は修正ディーツ法などの近似法に対して、日次評価データを用いて時間加重収益率をより厳密に算出することに着目した呼称と考えると分かりやすい。
日次評価法では、基本的に毎営業日、前営業日の純資産総額、当営業日の純資産総額、設定・解約等による外部キャッシュフローを使用して、その日の日次収益率を算出する。
3.2 日次収益率の計算式
日次収益率は、純資産総額の単純な前日比ではなく、当日の外部キャッシュフローを調整して算出する。本記事では計算方法を分かりやすく示すため、当日の外部キャッシュフローはすべて期首に発生するものとして扱う。
この前提では、日次収益率は次式で表せる。
日次収益率 = 当日純資産総額 ÷(前日純資産総額 + 当日外部キャッシュフロー)- 1
例えば、前日の純資産総額が100億円で、当日に20億円の純資金流入があり、当日の純資産総額が121.2億円だったとする。この場合、
121.2 ÷(100+20)-1 = +1.0%
となる。
純資産総額そのものは100億円から121.2億円へ21.2%増加しているが、このうち20億円は外部から新たに流入した資金であり、運用益ではない。そのため、外部キャッシュフローの影響を取り除いたこの日の日次収益率は+1.0%となる。
3.3 外部キャッシュフローの認識方法
実務では、外部キャッシュフローを期首・期末のどちらで認識するかなどについて、各社やポートフォリオごとに計算方針が定められている。本記事では、計算例を単純化するため、当日の外部キャッシュフローをすべて期首に発生するものとしている。
重要なのは、どの方法を採用する場合であっても、外部キャッシュフローの認識方法をあらかじめ定め、そのルールを一貫して適用することである。
4. 実例:2026年9月の月次収益率を算出する
4.1 使用するデータ
ここからは、架空のファンドを用いて、実際に1か月分の時間加重収益率を計算してみる。2026年9月の月次収益率を算出するためには、まず前月末である2026年8月31日の純資産総額が必要となる。
そこから9月の各営業日について、純資産総額と設定・解約等による外部キャッシュフローを使用して日次収益率を算出していく。以下では、金額の単位を億円とし、外部キャッシュフローはすべて期首に発生するものとしている。
| 日付 | 純資産総額 | 当日の外部CF | 日次収益率 |
|---|---|---|---|
| 2026/8/31 | 100.000000 | ― | ― |
| 2026/9/1 | 101.505000 | +1.000 | +0.5000% |
| 2026/9/2 | 101.301990 | 0.000 | -0.2000% |
| 2026/9/3 | 103.818500 | +2.000 | +0.5000% |
| 2026/9/4 | 102.780315 | 0.000 | -1.0000% |
| 2026/9/7 | 103.088656 | 0.000 | +0.3000% |
| 2026/9/8 | 102.588656 | -0.500 | +0.0000% |
| 2026/9/9 | 103.409365 | 0.000 | +0.8000% |
| 2026/9/10 | 104.722593 | +1.000 | +0.3000% |
| 2026/9/11 | 104.303703 | 0.000 | -0.4000% |
| 2026/9/14 | 104.929525 | 0.000 | +0.6000% |
| 2026/9/15 | 106.247314 | +1.000 | +0.3000% |
| 2026/9/16 | 106.034819 | 0.000 | -0.2000% |
| 2026/9/17 | 106.564993 | 0.000 | +0.5000% |
| 2026/9/18 | 106.564993 | 0.000 | +0.0000% |
| 2026/9/21 | 107.417513 | 0.000 | +0.8000% |
| 2026/9/22 | 106.880426 | 0.000 | -0.5000% |
| 2026/9/23 | 106.773545 | 0.000 | -0.1000% |
| 2026/9/24 | 108.204639 | +1.000 | +0.4000% |
| 2026/9/25 | 108.745662 | 0.000 | +0.5000% |
| 2026/9/28 | 108.528171 | 0.000 | -0.2000% |
| 2026/9/29 | 108.853756 | 0.000 | +0.3000% |
| 2026/9/30 | 109.398024 | 0.000 | +0.5000% |
※数値は計算方法を説明するための架空のデータである。
この表では、各営業日の純資産総額について、次の関係が成立する。
当日純資産総額 =(前日純資産総額 + 当日外部キャッシュフロー)×(1+日次収益率)
4.2 9月1日の日次収益率を算出する
8月31日の純資産総額は100億円である。9月1日に1億円の資金流入が発生し、9月1日の純資産総額は101.505億円となった。したがって、
101.505 ÷(100.000+1.000)-1 = +0.5000%
となる。
純資産総額だけを見ると100.000億円から101.505億円へ1.505%増加しているが、そのうち1億円は新たな設定によって外部から流入した資金である。その影響を取り除けば、この日の運用による収益率は+0.5%となる。
4.3 解約が発生した日の収益率を算出する
9月8日には、0.5億円の資金流出が発生している。前営業日である9月7日の純資産総額は103.088656億円であるため、
102.588656 ÷(103.088656-0.500)-1 = 0.0000%
となる。
純資産総額だけを見ると103.088656億円から102.588656億円へ0.5億円減少している。しかし、この減少はすべて解約による資金流出であり、運用による損失ではない。したがって、この日の日次収益率は0%となる。
このように、設定や解約によって純資産総額が変動していても、その影響を取り除くことでファンドの運用そのものの収益率を算出できる。
4.4 日次収益率を幾何リンクして月次収益率を算出する
9月1日から9月30日までの日次収益率を算出したら、最後にこれらを幾何リンクする。日次収益率を単純に合計するのではなく、次のように計算する。
2026年9月月次収益率 = (1+0.005) × (1-0.002) × (1+0.005) × (1-0.010) × …… × (1+0.005) - 1
この例では、
2026年9月の月次収益率 = +3.743650…%
となる。したがって、表示上は約+3.74%となる。
4.5 NAVの単純比較との違い
一方、8月31日の純資産総額100億円と9月30日の109.398024億円だけを比較すると、
109.398024 ÷ 100 - 1 = +9.398024%
となる。
しかし、9月中には設定・解約による外部キャッシュフローが発生しているため、この+9.40%はファンドの運用収益率ではない。日々の外部キャッシュフローの影響を取り除いて日次収益率を算出し、それを幾何リンクすることで、ファンドの運用そのものによる9月の収益率である約+3.74%を求めることができる。
5. 月次収益率から年次・設定来収益率へ
5.1 毎月の月次収益率を算出する
資産運用会社におけるファンドのパフォーマンス算出では、4章で示した計算を毎月繰り返す。例えば9月であれば、8月末純資産総額 + 9月の日次純資産総額 + 9月の日次外部キャッシュフロー → 各営業日の日次収益率を算出 → 日次収益率を幾何リンク → 9月月次収益率という流れになる。
10月については、9月末純資産総額 + 10月の日次純資産総額 + 10月の日次外部キャッシュフロー → 各営業日の日次収益率を算出 → 日次収益率を幾何リンク → 10月月次収益率となる。
5.2 月次収益率を幾何リンクして年次収益率を算出する
1月から12月までの月次収益率がr₁、r₂、……、r₁₂であれば、年間の収益率は次のようになる。
年次収益率 = (1+r₁) × (1+r₂) × …… × (1+r₁₂) - 1
つまり、日次収益率 → 幾何リンク → 月次収益率 → 幾何リンク → 年次収益率という構造である。
5.3 3年・5年・設定来収益率への展開
同じ考え方で、月次収益率をさらに幾何リンクすることで、3年、5年、設定来などの累積収益率を算出することもできる。どの期間について計算する場合でも、基本となる考え方は変わらない。短い期間の収益率を正しく算出し、それらを幾何リンクしてより長い期間の収益率を作る。
6. 日次評価を行わない場合の時間加重収益率
6.1 外部キャッシュフロー発生時に再評価する方法
すべてのポートフォリオについて、毎営業日の正確な時価評価を行っているとは限らない。日次評価を行わないポートフォリオであっても、外部キャッシュフローが発生したタイミングでポートフォリオを再評価できる場合には、その時点で評価期間を区切り、各サブ期間の収益率を算出することができる。
その収益率を幾何リンクすることで、時間加重収益率を算出する。
6.2 修正ディーツ法による近似
外部キャッシュフローが発生するたびに時価評価を行うことが難しい場合には、修正ディーツ法(Modified Dietz Method)などを用いて各期間の収益率を近似する方法がある。修正ディーツ法では、期間中に発生した外部キャッシュフローについて、その発生タイミングに応じてウェイトを付けて収益率を計算する。
こうして算出した各期間の収益率を幾何リンクすることで、時間加重収益率を近似することができる。したがって、「日次評価できない場合は修正ディーツ法を使う」という単純な関係ではなく、外部キャッシュフロー発生時に再評価できるかどうかなどによって計算方法が異なる。
6.3 PE等でMWRR・IRRを使用する場合
一方、PE等のクローズドエンド型運用では事情が異なる。運用者が資金拠出のタイミングを一定程度コントロールし、資金拠出・回収・分配などのキャッシュフローのタイミングも運用成果の重要な要素となる場合がある。
そのため、外部キャッシュフローの影響を取り除く時間加重収益率よりも、キャッシュフローの金額とタイミングを収益率に反映する金額加重収益率(Money-Weighted Rate of Return:MWRR)が重要となる場合がある。MWRRの代表的な計算方法がIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)である。
整理すると、日次評価を行うファンド → 日次評価法によるTWRR、日次評価は行わないがTWRRを算出するポートフォリオ → 外部CF発生時の再評価や修正ディーツ法等、資金拠出・回収等のタイミング自体が運用成果の重要な要素となる運用 → MWRR(IRR等)という関係になる。
7. 時間加重収益率と金額加重収益率の違い
7.1 TWRRとMWRRの比較
時間加重収益率と対比されるものとして、金額加重収益率(Money-Weighted Rate of Return:MWRR)がある。両者は、そもそも測定しようとしているものが異なる。
| 時間加重収益率 | 金額加重収益率 | |
|---|---|---|
| 英語 | TWRR | MWRR |
| 主な目的 | 外部CFの影響を除いた運用成果の測定 | キャッシュフローの金額・タイミングを含めた投資成果の測定 |
| 外部CFの影響 | 原則として除く | 反映する |
| 資金投入のタイミング | 収益率への影響を排除 | 収益率に影響する |
| 主な用途 | ファンド・運用者のパフォーマンス評価 | 投資家単位の収益率、PE等 |
| 代表的な計算 | サブ期間収益率の幾何リンク(日次評価法等) | IRR等 |
例えば、投資家が相場上昇後に大量の資金を投入し、その直後に相場が下落した場合、投資家自身が実際に得た投資成果は悪化する。MWRRでは、その資金投入の金額とタイミングも含めて収益率を測定する。
一方、TWRRでは、その資金投入のタイミングが運用者のコントロール外である場合、その影響を取り除いて運用そのものの成果を測定する。そのため、伝統的な資産運用におけるファンドやポートフォリオの運用成果を評価する際には、時間加重収益率が広く利用されている。
7.2 MWRRとIRRの関係
MWRRとIRRは別々の概念として並べられることがあるが、IRRはMWRRを算出する代表的な方法である。IRRでは、投資開始時の資金拠出、期間中の追加拠出や分配、期末価値などのキャッシュフローを用いて、それらの現在価値が一致する収益率を求める。
したがって、PE等のパフォーマンスについて「IRRで評価する」という場合、キャッシュフローの金額とタイミングを考慮した金額加重型の収益率を算出していると理解すると分かりやすい。
8. まとめ
時間加重収益率とは、設定・解約等の外部キャッシュフローの影響を取り除き、ファンドやポートフォリオの運用そのものの成果を測定するための収益率である。理論的には、外部キャッシュフローが発生するタイミングなどで期間を区切り、それぞれのサブ期間の収益率を幾何リンクする。
一方、毎営業日に純資産総額を算出している一般的なファンドでは、実務上は日次評価法(日次厳密法)によって毎営業日の収益率を算出し、それを幾何リンクする方法が広く用いられている。
日次評価を行っているファンドの月次パフォーマンス算出を整理すると、前月末純資産総額 + 当月の日次純資産総額 + 当月の日次外部キャッシュフロー → 毎営業日の日次収益率を算出 → 日次収益率を幾何リンク → 月次収益率 → さらに幾何リンク → 年次・設定来収益率という流れになる。
日次評価を行っている一般的なファンドでは、実務上は「日々のファンド収益率を正しく算出し、それを幾何リンクしていくこと」が時間加重収益率の計算であると捉えると理解しやすい。
