外国株式や外国債券などの外貨建て資産に投資する場合、ファンドの収益率は現地通貨ベースの資産価格変動だけでは決まらない。例えば、円建てファンドが米国株式へ投資している場合、米国株式のドルベースの収益率に加えて、ドル円為替レートの変動も円ベースの収益率に影響する。
このため、外貨建て資産の収益率をファンドの基準通貨へ換算する場合は、現地通貨ベースの資産収益率と基準通貨に対する為替騰落率を組み合わせて計算する必要がある。
本記事では、外貨建て資産の収益率を基準通貨ベースへ換算する基本的な計算方法を整理する。
1. 外貨建て資産の収益率
1.1 収益率を構成する2つの要素
例えば、円建てファンドが米国株式を保有しているケースを考える。米国株式の価格がドルベースで上昇した場合、その上昇分はファンドの収益となる。一方、同じ期間にドル円為替レートが変動すれば、その影響も円換算後の資産価値に反映される。
円ベースの収益率は、次の2つの要素から構成される。
- 現地通貨ベースの資産収益率
- 基準通貨に対する為替騰落率
例えば米国株式であれば、米国株式のドルベース収益率とUSD/JPYの為替騰落率を組み合わせることで、円ベースの収益率を算出できる。
1.2 現地通貨ベース収益率に含まれるもの
ここでいう現地通貨ベースの資産収益率には、計測対象に応じて配当や利息などを含む。
例えば株式指数であれば、Price Return、Total Return、Net Total Returnなど、どの収益率を使用するかによって現地通貨ベースの収益率は異なる。
為替換算の計算方法自体は同じだが、元となる現地通貨ベースの収益率に何が含まれているかには注意が必要である。
2. 基準通貨ベース収益率の計算
2.1 基本式
現地通貨ベースの資産収益率を Rlocal、為替騰落率を RFX、基準通貨ベースの収益率を Rbase とする。このとき、次の関係が成り立つ。
したがって、
となる。これを展開すると、
である。
つまり、現地通貨ベースの資産収益率と為替騰落率を単純に足し合わせるだけでは正確な収益率にならない。それぞれのグロスリターンである 1 + Rlocal と 1 + RFX を乗算する必要がある。
2.2 為替騰落率の計算
円建てファンドがドル建て資産を保有している場合、一般的にはUSD/JPYレートを利用する。
USD/JPYが100円から105円になった場合、1ドルの円換算価値が100円から105円へ上昇しているため、ドル高・円安である。為替騰落率は、
となり、円建てファンドにとっては+5%の為替効果となる。
逆に、USD/JPYが100円から95円になった場合は、
となる。この場合は円高となるため、円換算後の外貨建て資産価値は減少する。
一般化すると、基準通貨で見た「外貨1単位あたりの価値」を FXt とした場合、為替騰落率は、
によって計算できる。円建てファンドであれば、USD/JPY、EUR/JPY、GBP/JPYなどがこれに該当する。
3. 計算例
3.1 資産価格と為替がともに上昇した場合
米国株式が1期間でドルベース10%上昇し、同じ期間にUSD/JPYが5%上昇したとする。この場合、
となるため、
となる。したがって、円ベースの収益率は15.5%である。
単純に10%+5%=15%と計算すると、正しい15.5%との間に0.5%ポイントの差が生じる。これは、
という、資産収益率と為替騰落率の掛け合わせによって生じる。展開式で表すと、
となる。
3.2 資産価格は上昇したが円高になった場合
同じく米国株式がドルベースで10%上昇した一方、USD/JPYが5%下落した場合を考える。
より、
となる。したがって、米国株式自体はドルベースで10%上昇していても、円高による為替要因によって円ベースでは4.5%の上昇にとどまる。
外国資産のパフォーマンスを見る際には、現地市場の値動きだけでなく、為替変動が基準通貨ベースの収益率へ与える影響も考慮する必要がある。
3.3 円換算価格から直接計算する場合
この計算は、外貨建て資産を基準通貨へ換算してから収益率を計算することでも確認できる。
例えば、米国株式の価格が100ドルから110ドルへ上昇し、USD/JPYが100円から105円へ上昇した場合を考える。当初の円換算価格は、
であり、期末の円換算価格は、
となる。したがって、円ベースの収益率は、
となる。
これは、
と一致する。
つまり、現地通貨建て資産価格と為替レートをそれぞれ収益率化して組み合わせる方法と、資産価格を基準通貨へ換算してから収益率を計算する方法は、数学的には同じ計算を別の形で表したものである。
4. 為替レートの扱い
4.1 為替レートの向き
為替騰落率を計算するときには、為替レートがどちらの通貨を基準として表示されているかに注意する必要がある。
円建てファンドがドル建て資産を保有している場合、USD/JPYのように「1ドル=何円」というレートを利用すれば、
によって、そのまま円ベースでの為替騰落率を計算できる。
収益率計算では、「基準通貨で外貨1単位をいくらと評価するか」という方向の為替レートを使用すると分かりやすい。円建てファンドであれば、「外貨1単位あたり何円か」というレートを用いることになる。
4.2 逆数レートの騰落率に注意
JPY/USDのように逆方向のレートを使用する場合、その騰落率をそのまま利用することはできない。
例えばUSD/JPYが100から105へ上昇した場合、ドル高・円安であり、円建て投資家にとって+5%の為替効果となる。これを逆数で表すと、JPY/USDは0.0100から0.009524へ下落する。
この場合のJPY/USDの騰落率は、
となる。
つまり、USD/JPYは+5.00%である一方、JPY/USDは約−4.76%であり、逆数で表した為替レートの騰落率は単純に符号を反転した値にはならない。
そのため、逆方向の為替レートを使用する場合に、騰落率の符号だけを反転して為替効果を求めることはできない。
5. 日次パフォーマンスへの適用
5.1 日次収益率の計算
日次パフォーマンスを計算する場合も考え方は同じである。
日次の現地通貨ベースの資産収益率を rlocal,t、日次の為替騰落率を rFX,t とすると、基準通貨ベースの日次収益率 rbase,t は、
によって計算できる。
5.2 日次収益率の幾何リンク
日次で算出した基準通貨ベース収益率を期間全体について幾何リンクすれば、期間収益率となる。
したがって、日次でパフォーマンスを算出する場合は、現地通貨ベースの日次収益率と日次の為替騰落率をそれぞれ計算し、両者のグロスリターンを乗算して基準通貨ベースの日次収益率を求め、その日次収益率を幾何リンクするという流れになる。
6. 複数通貨ポートフォリオ
6.1 各資産の基準通貨換算
実際のファンドでは、米ドルだけでなく、ユーロ、英ポンド、豪ドルなど複数の通貨建て資産を保有する場合がある。
この場合、ポートフォリオ全体に単一の為替騰落率を掛けるのではなく、各通貨建て資産について個別に基準通貨へ換算する必要がある。
例えば円建てファンドであれば、米国株式は米ドル建て資産価格 × USD/JPY、欧州株式はユーロ建て資産価格 × EUR/JPY、英国株式はポンド建て資産価格 × GBP/JPYという形で、それぞれ円換算する。
6.2 ポートフォリオ収益率への集計
各資産の評価額を基準通貨へ換算したうえでポートフォリオ全体の時価を計算すれば、ファンド全体の基準通貨ベース収益率を求めることができる。
一方、各資産の基準通貨ベース収益率からポートフォリオ収益率を計算する場合には、単純平均ではなく、期初時価など適切なウェイトを用いて集計する必要がある。
なお、実際のファンド全体のパフォーマンス算出では、設定・解約などの外部キャッシュフローがある場合、その影響も考慮する必要がある。
7. 為替ヘッジを行う場合
ここまでの計算は、基本的に為替ヘッジを行っていない外貨建て資産を前提としている。
為替ヘッジを行う場合には、現物為替レートの変動だけではなく、為替フォワードなどのヘッジ取引による損益もファンド全体の収益率に影響する。そのため、為替ヘッジ付きファンドでは、現地通貨ベースの資産収益率と現物為替レートの騰落率を組み合わせるだけでは、ファンドのパフォーマンスを再現することはできない。
為替ヘッジを含むパフォーマンスを理解するためには、為替フォワードの評価損益、フォワードレートとスポットレートの関係、ヘッジ取引のロール、通貨間の金利差や通貨ベーシスがフォワードレートへ与える影響などを考慮する必要がある。
特に、金利差や通貨ベーシスは、それ自体を独立した損益項目として単純に加算するものではなく、フォワードレートの形成やヘッジ取引の損益に影響する要因である。
為替ヘッジの計算は、非ヘッジ資産の単純な為替換算とは別の論点として整理する必要がある。
まとめ
外貨建て資産の収益率をファンドの基準通貨ベースへ換算する場合、基本となる関係は次のとおりである。
したがって、
となる。
円建てファンドがドル建て資産へ投資している場合であれば、ドルベースの資産収益率とUSD/JPYの為替騰落率を組み合わせることで、円ベースの収益率を算出できる。重要なのは、現地通貨ベースの資産収益率と為替騰落率を単純に加算するのではなく、それぞれのグロスリターン(1+収益率)を乗算することである。
また、為替レートの向きにも注意が必要である。逆数で表した為替レートの騰落率は単純に符号を反転した値にはならないため、基準通貨で外貨1単位をいくらと評価するかという方向の為替レートを用いると分かりやすい。
この関係は日次収益率でも期間収益率でも同じであり、外貨建て資産を含むポートフォリオのパフォーマンス計測における基本的な計算となる。なお、為替ヘッジを行っている場合には、現物為替レートの変動だけでなく、為替フォワード等のヘッジ取引による損益を含めて評価する必要がある。
