ファンドやベンチマークのパフォーマンスを確認する際、最も基本となるのが一定期間の収益率である。 例えば「過去1年間でファンドが何%上昇したか」を計算する場合、必要なのは原則として期初と期末の基準価額だけである。 計算方法は非常に単純である。
例えば、1年前の基準価額が10,000円、現在の基準価額が11,500円であれば、
したがって、1年間の収益率は15%となる。 基準価額やベンチマーク指数には、それまでの値動きが累積的に反映されているため、一定期間の収益率を求めるだけであれば、日々の収益率を1日ずつ計算する必要はない。 比較したい2時点の値を使えば、その期間全体の収益率を直接計算できる。
本記事では、基準価額やベンチマーク指数を使った1か月、1年、3年などの期間収益率の基本的な計算方法と、実務上注意したい日付の扱いについて整理する。
1. 期間収益率の基本
1.1 基本的な計算式
ある時点から別の時点までの収益率は、次の式で計算できる。
基準価額を使う場合は、
となる。
ここで、
- NAV0:期初の基準価額
- NAVt:期末の基準価額
- R:期間収益率
である。
例えば、基準価額が10,000円から10,800円へ上昇した場合、
となるため、収益率は8%である。
1.2 ベンチマーク指数でも計算方法は同じ
ベンチマーク指数についても計算方法は同じである。
例えば、指数値が2,000から2,200へ上昇した場合、
したがって、その期間の指数収益率は10%となる。
つまり、基準価額であってもベンチマーク指数であっても、各時点の水準値が得られる時系列データであれば、
という同じ考え方で期間収益率を算出できる。
2. 1か月・3か月・1年収益率の計算
2.1 過去1か月収益率
過去1か月収益率を計算する場合は、現在の基準価額と1か月前の基準価額を使用する。
例えば、
1か月前:10,000円 現在:10,300円
であれば、
となる。
ここでいう過去1か月収益率は、任意の評価日を基準とした1か月前との比較である。 例えば9月15日時点の過去1か月収益率であれば、原則として8月15日時点の値と比較する。 後述する「月次収益率」は、前月末から当月末までの暦月ベースの収益率であり、過去1か月収益率とは区別して考える必要がある。
2.2 過去3か月収益率
過去3か月収益率も同様である。
例えば、
3か月前:10,000円 現在:10,600円
であれば、
となる。
2.3 1年収益率
1年収益率の場合は、現在と1年前の値を使用する。
例えば、
1年前:10,000円 現在:11,500円
の場合、
となる。 このように、1か月、3か月、1年であっても基本的な計算方法は変わらない。 異なるのは、どの時点の基準価額を期初値として使用するかだけである。
3. 3年・5年などの長期収益率
3.1 累積収益率
3年間で基準価額がどれだけ上昇・下落したかをそのまま求める場合は、短期の収益率と同じ計算式を使用する。
例えば、
3年前:10,000円 現在:13,310円
の場合、
となる。 この33.1%は、3年間全体での累積収益率である。
3.2 年率収益率
一方、3年間のパフォーマンスを「1年あたり何%のペースで増加したか」で表示する場合は、年率換算する。
3年年率収益率は次の式で計算する。
先ほどの例では、
となる。
つまり、
- 3年累積収益率:33.1%
- 3年年率収益率:10.0%
である。
3年、5年、10年などの長期パフォーマンスを比較する場合には、累積収益率だけでなく年率収益率が用いられることも多い。
一般化すると、n年間の年率収益率は、
で計算できる。
ここでnは期間の年数を表す。例えば2年6か月であれば、n=2.5として計算することもできる。
4. 基準価額を使う場合の注意点
4.1 分配金の扱い
投資信託の基準価額は、分配金を支払うとその分だけ低下する。
このため、通常の基準価額をそのまま使って長期間の収益率を計算すると、分配金を含まない収益率となる。
ファンドそのものの運用成果を比較したい場合には、一般に分配金を再投資したと仮定した分配金再投資基準価額を使用する。
したがって、
として計算することで、分配金を含めたトータルリターンを算出できる。
4.2 ベンチマークとの比較では指数の種類をそろえる
ベンチマーク指数には、配当を含まない価格指数と、配当を再投資した配当込み指数が存在する。
ファンドの分配金再投資基準価額とベンチマークを比較する場合には、ベンチマークについても配当込み指数を使用するなど、収益率の定義をそろえることが重要である。
また、配当込み指数にも、税引前の配当を再投資するグロス配当込み指数と、配当に対する税を考慮したネット配当込み指数など、複数の種類が存在する場合がある。
そのため、単に「配当込み指数を使う」と考えるのではなく、ファンドが採用しているベンチマークの定義を確認したうえで比較する必要がある。
5. 収益率計算で使用する日付
5.1 過去1か月収益率と月次収益率は異なる
「過去1か月収益率」と「月次収益率」は似た表現であるが、意味は異なる。
過去1か月収益率は、任意の評価日から1か月前との比較である。
例えば、9月15日時点の過去1か月収益率であれば、
- 期初値:8月15日時点
- 期末値:9月15日時点
の値を比較する。
一方、月次収益率は暦月ベースの収益率であり、前月末から当月末までの変化率を表す。
例えば、9月の月次収益率を計算する場合は、
- 期初値:8月31日時点の基準価額
- 期末値:9月30日時点の基準価額
を使用する。
計算式は、
となる。
例えば、
8月31日:10,000円 9月30日:10,500円
であれば、
となる。
9月1日の基準価額から計算するのではない点には注意が必要である。
9月1日の基準価額は、すでに9月1日の値動きを反映した値であるため、これを期初値とすると9月1日の収益率が計算対象から抜けてしまう。
月次収益率は基本的に「前月末から当月末までの変化率」と考えると分かりやすい。
5.2 1年収益率は「1年前の同日」を基準とする
1年収益率についても考え方は同じである。
例えば、2026年9月30日時点で過去1年間の収益率を計算する場合は、
- 期初値:2025年9月30日時点の基準価額
- 期末値:2026年9月30日時点の基準価額
を使用する。
このように、期間収益率を計算する場合は、単に「1か月前」「1年前」と考えるだけでなく、どの基準日とどの基準日を比較しているのかを明確にすることが重要である。
5.3 基準日にファンドの基準価額が存在しない場合
基準日が休日などでファンドの基準価額が存在しない場合は、基準日以前で直近のファンド評価日、つまり直前の基準価額算出日の値を使用するのが一般的である。
例えば、月末がファンドの非評価日に当たる場合には、その月末以前で最も近い基準価額算出日の値を使用する。
ここで単に「前営業日」と表現すると、日本市場の営業日、海外市場の営業日、ファンドの評価日のいずれを指すのか曖昧になる場合がある。
そのため、ファンドの収益率計算では「基準日以前で直近の基準価額算出日」または「ファンドの直前評価日」を使用すると考える方が明確である。
実務では、月次・年次・3年・5年など複数の期間収益率を継続的に算出することが多いため、基準日に値が存在しない場合の取得ルールをあらかじめ統一しておくことが重要である。
5.4 ファンドとベンチマークはファンドの評価日を基準にする
ファンドの収益率とベンチマークの収益率を比較する場合は、原則としてファンドの評価日を基準にする。
特に外国株式や外国債券へ投資するファンドでは、ファンドの基準価額が算出される日と、ベンチマーク指数が算出される日が一致しないことがある。
例えば、日本籍ファンドが米国株式へ投資している場合、日本が営業日でファンドの基準価額が算出されていても、米国市場が祝日で休場していることがある。
この場合でも、ファンドについてはその日の基準価額を使用する。
米国市場が休場して株価が更新されていなくても、為替変動やその他の評価要素によってファンドの基準価額が変動する可能性があるためである。
一方、ベンチマーク指数について当日の指数値が存在しない場合は、直前の指数算出日の値を、その日の比較用のベンチマーク値として使用するのが一般的である。
したがって、ファンドとベンチマークを比較する際の考え方は、
- ファンドの評価日を比較の基準日とする
- ファンドはその日の基準価額を使用する
- ベンチマークに当日の指数値が存在する場合は、その値を使用する
- ベンチマークに当日の指数値が存在しない場合は、直前の利用可能な指数値を使用する
という整理になる。
例えば、ファンドの期末評価日が2026年9月30日であれば、ファンドは2026年9月30日の基準価額を使用する。
ベンチマークについても2026年9月30日の指数値が存在すればその値を使用するが、その日がベンチマークの非算出日であれば、2026年9月30日以前で直近の指数算出日の値を使用する。
このように、ファンドとベンチマークの比較では、単純に「同じ日付の実データが存在する日だけを使う」のではなく、ファンドの評価日を軸に比較期間をそろえることが重要である。
5.5 為替レートは指数と同じルールで扱うとは限らない
為替レートを使用する場合も、ファンドの評価日を基準に考える必要があるが、ベンチマーク指数と同じように値をスライドすればよいとは限らない。
例えば、米国市場が祝日で株価指数が更新されない日であっても、為替市場ではその日のレートが存在することがある。
この場合、
- ベンチマーク指数:当日の値が存在しないため、直前の指数算出日の値を使用する
- 為替レート:当日のレートが存在するため、当日のレートを使用する
という扱いになる。
つまり、複数の時系列データを組み合わせてパフォーマンスを計算する場合は、すべてのデータを機械的に同じルールで前日にスライドすればよいわけではない。
ファンドの基準価額、ベンチマーク指数、為替レートなど、それぞれのデータについて、基準日に値が算出・公表されているかを確認し、そのデータの性質に応じて適切な値を使用する必要がある。
6. 日次収益率を計算する必要はない
期間収益率を求めるだけであれば、途中の日次収益率をすべて計算する必要はない。
例えば1年間に250営業日程度の基準価額データが存在していても、1年収益率を求めるだけであれば必要なのは基本的に2つの値である。
この2つを使って、
と計算すればよい。
これは、基準価額や指数値そのものに、それまでの値動きが累積的に反映されているためである。
なお、日次収益率をすべて幾何リンクしても結果は同じになる。
ただし、単純な期間収益率を求めるだけであれば、期初値と期末値を直接比較する方がはるかに簡単である。
7. まとめ
基準価額やベンチマーク指数を使った期間収益率の計算は非常にシンプルである。
基本となる式は、
だけである。
過去1か月収益率なら評価日の1か月前、1年収益率なら1年前の同日、3年累積収益率なら3年前の同日を期初の基準日とする。
一方、月次収益率は過去1か月収益率とは異なり、前月末から当月末までの暦月ベースで計算する。
また、複数年の収益率を年率表示する場合は、
として計算する。
実務では、計算式そのものよりも、どの日付のデータを使用するかが重要となる。
ファンドについて基準日に基準価額が存在しない場合は、基準日以前で直近のファンド評価日の値を使用するのが一般的である。
また、ファンドとベンチマークを比較する場合はファンドの評価日を基準とし、ベンチマークに当日の指数値が存在しない場合には直前の利用可能な指数値を使用する。
為替レートについては、株価指数が更新されない日であっても当日のレートが存在する場合があるため、ベンチマークと同じルールで機械的に日付をスライドするのではなく、それぞれのデータの算出・公表状況に応じて適切な値を使用する必要がある。
基本的な計算式は単純であるが、基準日の取り方と各データの日付の扱いを適切に統一することが、正確なパフォーマンス計算には重要となる。
