金額加重収益率(Money-Weighted Rate of Return:MWRR)は、投資期間中に発生した資金投入や回収について、その金額とタイミングを反映して投資成果を測定する収益率である。その代表的な計算方法がIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)である。
MWRR・IRRがよく使われる代表例が、プライベート・エクイティなどのプライベート資産である。
一般的な公募投資信託では、投資家による設定・解約のタイミングをファンドマネージャーが基本的にコントロールできない。そのため、設定・解約の影響を取り除き、運用そのものの成果を測定する時間加重収益率(TWRR)が適している。
一方、プライベート・エクイティなどでは、キャピタルコールや回収・分配のタイミングにも運用者の判断が関わるため、資金投入・回収の金額とタイミングを反映できる金額加重収益率が重要な指標となる。
例えば、
100を投資して3年後に150を回収した
のか、
100を投資して10年後に150を回収した
のかでは、同じ1.5倍の投資成果でも意味が大きく異なる。
このように、プライベートエクイティでは「いくら増えたか」だけでなく、「いつ資金を投入し、どれくらいの期間で回収したか」も運用成果の重要な一部となるため、キャッシュフローの影響を取り除くTWRRではなく、資金投入・回収の金額とタイミングをそのまま反映するMWRR・IRRが重要となる。
MWRRはプライベートエクイティだけの指標ではない。投資家自身が追加投資や途中売却を行っている場合の実際の投資成果や、プライベートエクイティFOF、ベンチャーキャピタル、インフラ、不動産、プライベートデットなど、異なる時点で資金投入と回収が発生する投資でも利用される。
本記事では、まず簡単な例からIRRの計算方法をわかりやすく解説し、複数回の入出金がある場合、実際の日付を用いるXIRR、評価時点で資産が残っている場合の計算へと進む。その後、IRRの計算原理、時間加重収益率との違い、プライベートエクイティ等での実務上の利用方法について整理する。
1. 金額加重収益率とは
1.1 金額加重収益率の基本
金額加重収益率は、「いつ、いくら投資したか」を含めて投資成果を測定する収益率である。
例えば、同じファンドに投資していても、価格が低い時期に大きく資金を投入した投資家と、価格上昇後に大きく資金を投入した投資家では、実際に得られる投資成果は異なる。
MWRRでは、この投資金額と投資タイミングの違いを収益率へ反映する。
例えば、 100を投資して+10% その後100を追加投資して-10% となった場合を考える。
最初の100は、
100 × 1.10 = 110
となる。
ここで100を追加投資すると、
110 + 100 = 210
となる。
その後10%下落すると、
210 × 0.90 = 189
となる。
この場合、
+10%だった期間 → 100が運用されていた
-10%だった期間 → 210が運用されていた
という違いがある。
つまり、損失が発生した期間の方が、より大きな金額が投資されている。
MWRRでは、この投資金額の違いが収益率へ反映される。
1.2 MWRRとIRRの関係
MWRRは、キャッシュフローの金額とタイミングを反映して投資成果を測定するという考え方である。
このMWRRを求める代表的な方法がIRRである。
IRRはInternal Rate of Returnの略で、日本語では内部収益率と呼ばれる。
整理すると、
MWRR = 収益率の考え方
IRR = MWRRを求める代表的な計算方法
となる。
実務では「MWRRを計算する」という表現より、「IRRを計算する」という表現を目にすることも多い。
2. IRRを実際に計算してみる
2.1 IRRの基本的な見方
IRRでは、投資家から見たキャッシュフローを、
資金を出す → マイナス
資金を受け取る → プラス
として並べる。
そして、将来発生するキャッシュフローを投資時点の価値へ割り戻し、投資時点のキャッシュフローを含めた現在価値の合計が0になる収益率rを求める。
当初に投資し、その後は回収だけが発生する一般的なケースでは、
投資した金額 = 将来受け取る金額を現在価値へ割り戻した合計
となるような収益率を探していると考えると分かりやすい。
以降の計算も、この考え方で見ると理解しやすい。
2.2 途中で資金回収がある場合
まず、途中で一部回収がある単純な例を考える。
| 時点 | 内容 | キャッシュフロー |
|---|---|---|
| 投資時 | 資金投入 | -100 |
| 1年後 | 一部回収 | +30 |
| 2年後 | 最終回収 | +90 |
投資家は100を投資し、最終的に合計120を受け取っている。
単純な投資利益率だけを見れば、
120 ÷ 100 - 1 = 20%
である。
しかし、この20%だけでは、30を1年後にすでに回収していることが反映されていない。
そこでIRRでは、
投資時:-100 1年後:+30 2年後:+90
というすべてのキャッシュフローと、その発生タイミングを使う。
1年後の30は1年間、2年後の90は2年間、それぞれrで割り戻すため、
-100 + 30 ÷ (1+r) + 90 ÷ (1+r)² = 0
となる。
この式を満たすrを求めると、
IRR ≒ 11.05%
となる。
つまり、この一連の投資は、資金投入と回収のタイミングを考慮すると、年率約11.05%の投資成果だったと表すことができる。
2.3 同じ総回収額でも回収時期によってIRRは異なる
次に、次の2つの投資を比較する。
ケースA
投資時:-100 1年後:+30 2年後:+90
ケースB
投資時:-100 1年後:0 2年後:+120
どちらも投資額は100、総回収額は120であり、投資倍率は1.2倍である。
ケースAは、
-100 + 30 ÷ (1+r) + 90 ÷ (1+r)² = 0
となり、
IRR ≒ 11.05%
である。
ケースBでは、2年後に120を一度だけ受け取るため、
-100 + 120 ÷ (1+r)² = 0
となる。
これを見やすく変形すると、
100 × (1+r)² = 120
となる。
つまり、「100を年率rで2年間運用すると120になる」という意味である。
この式から、
IRR ≒ 9.54%
となる。
このように、式の見た目は変わっているが、
-100 + 120 ÷ (1+r)² = 0
と、
100 × (1+r)² = 120
は同じ式を変形したものである。
総回収額が同じでも、より早い時点で資金を回収しているケースAの方がIRRは高くなる。
2.4 投資倍率が同じでもIRRは異なる
次に、回収時期だけが異なるケースを考える。
100を投資して3年後に150を回収する場合は、
-100 + 150 ÷ (1+r)³ = 0
となる。
これを変形すると、
100 × (1+r)³ = 150
となる。
つまり、「100を年率rで3年間運用すると150になる」という形で見ることができる。
計算すると、
IRR ≒ 14.47%
となる。
一方、100を投資して10年後に150を回収する場合は、
-100 + 150 ÷ (1+r)¹⁰ = 0
となる。
同じように変形すると、
100 × (1+r)¹⁰ = 150
となり、
IRR ≒ 4.14%
となる。
どちらも投資倍率は1.5倍であるが、
3年間で1.5倍 → IRR 約14.47%
10年間で1.5倍 → IRR 約4.14%
となる。
IRRは「何倍になったか」だけではなく、「その成果を得るまでにどれだけの時間を要したか」まで含めて投資成果を表す。
3. 複数回の入出金がある場合
3.1 追加投資と複数回の回収があるケース
実際の投資では、当初投資と最終回収だけでなく、途中で追加投資や一部回収が発生する場合がある。
例えば、
| 時点 | 内容 | CF |
|---|---|---|
| 投資時 | 当初投資 | -100 |
| 1年後 | 追加投資 | -50 |
| 2年後 | 一部回収 | +30 |
| 3年後 | 一部回収 | +80 |
| 4年後 | 最終回収 | +100 |
というキャッシュフローを考える。
投資額の合計は、
100 + 50 = 150
である。
回収額の合計は、
30 + 80 + 100 = 210
である。
単純な投資倍率は、
210 ÷ 150 = 1.4倍
となる。
しかし、この1.4倍という数字だけでは、それぞれの資金がいつ投入され、いつ回収されたかが反映されていない。
IRRでは、
投資時:-100 1年後:-50 2年後:+30 3年後:+80 4年後:+100
というすべてのキャッシュフローを使って、
-100 - 50 ÷ (1+r) + 30 ÷ (1+r)² + 80 ÷ (1+r)³ + 100 ÷ (1+r)⁴ = 0
となるrを求める。
このように、追加投資がある場合も、回収が複数回ある場合も、すべてのキャッシュフローを同じ時点の価値へ割り戻して考えるという基本は変わらない。
3.2 キャッシュフローの符号
本記事では、投資家の視点からキャッシュフローを扱う。
そのため、
資金を投資する 追加投資する 資金を拠出する
→ マイナス
一方、
一部回収する 分配を受ける 最終的に資金を回収する
→ プラス
として扱う。
重要なのは、どちらの視点からキャッシュフローを見るかを統一することである。
4. 実際の日付を使ってIRRを計算する
4.1 キャッシュフローは一定間隔とは限らない
ここまでの例では、説明を分かりやすくするため、1年後、2年後という一定間隔でキャッシュフローを並べた。
しかし、実際の投資では、
2023年2月15日:投資 2023年11月8日:追加投資 2024年6月20日:一部回収 2025年9月3日:最終回収
というように、不規則な日付でキャッシュフローが発生することがある。
MWRRでは資金がどれくらいの期間投資されていたかが重要であるため、実際の日付を考慮して収益率を計算する必要がある。
4.2 ExcelのXIRRを使う
Excelでは、実際の日付を指定してIRRを計算するXIRR関数が用意されている。
例えば、
| 日付 | CF |
|---|---|
| 2023/2/15 | -100 |
| 2023/11/8 | -50 |
| 2024/6/20 | +30 |
| 2025/9/3 | +150 |
というデータがある場合、
=XIRR(B2:B5,A2:A5)
のように指定する。
これにより、各キャッシュフローの実際の日付間隔を考慮した年率IRRを算出できる。
4.3 IRR関数とXIRR関数の違い
ExcelのIRR関数は、それぞれのキャッシュフローが一定間隔で発生すると仮定して計算する。
IRR関数が返す値は「1期間あたり」の収益率であるため、
各期間が1年 → 年率
各期間が1か月 → 月次収益率
となる。
一方、XIRR関数では各キャッシュフローの実際の日付を指定し、その日付間隔を考慮した年率収益率を計算する。
実務上、キャッシュフローが不規則な日付で発生する場合には、実際の日付を反映できるXIRR型の計算が適している。
5. 評価時点で資産が残っている場合
5.1 期末時価を含めてIRRを計算する
投資成果を評価する時点で、すべての資産を売却・回収済みとは限らない。
例えば、
これまでに100を投資 途中で40を回収 評価日時点で80の資産価値が残っている
という場合を考える。
実際に回収済みの40だけでIRRを計算すると、現在保有している80の価値が無視されてしまう。
そこで、評価日時点の資産価値を、評価日に回収したものとみなしてIRR計算へ含める。
例えば、
| 日付 | 内容 | CF |
|---|---|---|
| 2023/1/1 | 投資 | -100 |
| 2024/6/1 | 一部回収 | +40 |
| 2026/12/31 | 期末時価 | +80 |
のように扱う。
この80は実際に現金として回収したものではないが、評価日時点で保有している資産価値としてIRRへ反映する。
5.2 未実現評価もIRRに影響する
評価時点で資産が残っている場合、IRRには実際に回収した金額だけでなく、未売却資産の評価額も含まれる。
したがって、高いIRRが算出されていても、その一部がまだ実現していない評価益によって構成されている場合がある。
IRRを見る際には、実現済みの回収と未実現の評価価値を区別して考えることも重要である。
6. IRRの計算原理
6.1 IRRは何を逆算しているのか
ここまでの計算方法を理解したうえで、IRRの原理を確認する。
IRRとは、投資と回収を同じ時点の価値に換算したとき、その価値が釣り合う収益率である。
例えば、
今日:-100 1年後:+110
という投資を考える。
1年後の110を年率10%で今日の価値へ割り戻すと、
110 ÷ 1.10 = 100
となる。
したがって、
-100 + 110 ÷ 1.10 = 0
となる。
このときの10%がIRRである。
同じ式を変形すると、
100 × 1.10 = 110
となる。
つまり、「将来の金額を現在価値へ割り戻す」という見方と、「現在の金額を将来価値へ増やす」という見方は、同じ関係を反対側から見ているだけである。
6.2 複数のキャッシュフローでも考え方は同じ
2章で使用した、
投資時:-100 1年後:+30 2年後:+90
という例では、
-100 + 30 ÷ (1+r) + 90 ÷ (1+r)² = 0
となるrを求める。
この式を満たすrが約11.05%である。
つまり、1年後の30と2年後の90を年率11.05%で投資時点へ割り戻すと、その合計が当初投資額100とほぼ一致する。
IRRでは、異なる時点で発生する複数のキャッシュフローを、一つの収益率で結び付けている。
6.3 一般的なIRRの式
各期のキャッシュフローをCF₀、CF₁、CF₂、……、CFₙとすると、一定間隔でキャッシュフローが発生する場合のIRRは、
0 = CF₀ + CF₁ ÷ (1+r) + CF₂ ÷ (1+r)² + …… + CFₙ ÷ (1+r)ⁿ
を満たすrとして求められる。
実際の日付を使用する場合には、
0 = Σ CFᵢ ÷ (1+r)^(dᵢ÷365)
を満たすrを求める。
ここでdᵢは、最初のキャッシュフローの日付から各キャッシュフローの日付までの経過日数であり、最初のキャッシュフローではd₀=0となる。
ExcelのXIRR関数では、各キャッシュフロー間の実際の日数差を使用しつつ、年率換算では1年を365日として計算する。そのため、計算期間にうるう年が含まれていても、指数部分の分母は365となる。
6.4 IRR・XIRRは反復計算で求める
IRRやXIRRでは、一般に収益率rを式から直接求めることは難しい。
そのため、実際の計算では、ある収益率を仮定して現在価値を計算し、その合計が0に近づくように収益率を少しずつ調整する反復計算を行う。
例えば、ある収益率を仮定して計算した結果、キャッシュフローの現在価値の合計が0にならなければ、収益率を変更して再計算する。
この処理を繰り返し、
キャッシュフローの現在価値の合計 ≒ 0
となる収益率を探す。
ExcelのIRR・XIRR関数も、このような反復計算によって収益率を求めている。
IRR・XIRRでは推定値(guess)を指定することもできる。推定値を省略した場合には、いずれも10%を初期値として計算を開始し、収束するまで収益率を変化させる。
したがって、IRRやXIRRは単純な割り算によって算出する収益率ではなく、「一連のキャッシュフローの現在価値が釣り合う収益率を数値計算によって探す」計算である。
7. 時間加重収益率との違い
7.1 TWRRとMWRRの比較
時間加重収益率と金額加重収益率は、どちらが優れているという関係ではなく、測定しようとしているものが異なる。
| 時間加重収益率 | 金額加重収益率 | |
|---|---|---|
| 英語 | TWRR | MWRR |
| 主な目的 | 運用そのものの成果を測定 | 実際に投入された資金の投資成果を測定 |
| 外部CF | 原則として影響を取り除く | 金額・タイミングを反映 |
| 投資金額 | 各期間の収益率への影響を排除 | 投資金額が結果に影響 |
| 投資タイミング | 原則として影響を排除 | 結果に影響 |
| 代表的な計算 | サブ期間収益率の幾何リンク | IRR、XIRR等 |
7.2 同じ運用でもTWRRとMWRRは異なる
例えば、各期間を1年として、
100を運用 → +10%
その後100を追加投資 → -10%
というケースを考える。
前半では、
100 × 1.10 = 110
となる。
ここで100を追加すると、
110 + 100 = 210
となる。
その後10%下落するため、
210 × 0.90 = 189
となる。
TWRRでは、
(1+10%) × (1-10%) - 1 = -1.0%
となる。
一方、MWRRでは、投資家から見て、
時点0:-100 1年後:-100 2年後:+189
というキャッシュフローになる。
したがって、
-100 - 100 ÷ (1+r) + 189 ÷ (1+r)² = 0
を満たすrを求める。
この場合、
MWRR(IRR)≒ -3.71%
となる。
したがって、
TWRR:-1.00% MWRR:約-3.71%
となる。
+10%となった期間には100しか投資されていなかったのに対し、その後100を追加したことで、-10%となった期間にはより大きな金額が投資されていた。
そのため、実際の投資金額を反映するMWRRの方が低くなる。
このように、
TWRR → 運用戦略そのものの成果
MWRR → 実際に投入された資金の投資成果
という違いがある。
8. 金額加重収益率・IRRが使われる場面
8.1 投資家自身の投資成果
MWRRは、投資家自身の投資成果を測定する場合に適している。
例えば同じファンドへ投資していても、
Aさん → 相場下落時に大きく追加投資
Bさん → 相場上昇後に大きく追加投資
していれば、それぞれが実際に得た収益率は異なる。
ファンドそのもののTWRRが同じでも、投資家ごとのMWRRは異なる。
積立投資、追加購入、途中売却などがある場合に、「自分が実際に投じた資金は何%の収益率だったのか」を測る場合にもMWRRを利用できる。
8.2 プライベートエクイティ・プライベートエクイティFOF
MWRR・IRRが代表的に使われる分野の一つがプライベートエクイティである。
プライベートエクイティでは、投資家がコミットメントした資金を最初からすべて払い込むのではなく、GPからのキャピタルコールに応じて段階的に資金を拠出する。その後、投資先企業の売却等に応じて分配が行われる。
このため、
いつ資金を拠出したか いつ資金を回収したか
が投資成果へ大きく影響し、IRRが重要なパフォーマンス指標となる。
プライベートエクイティFOFでも同様にIRRが利用される。ただしプライベートエクイティFOFには、
プライベートエクイティFOFと投資先プライベートエクイティファンドの間
LPとプライベートエクイティFOFの間
という二つのキャッシュフロー階層が存在する。
プライベートエクイティFOFに投資したLP自身のIRRを見る場合には、基本的にLPからプライベートエクイティFOFへの払込、プライベートエクイティFOFからLPへの分配、評価日時点のプライベートエクイティFOF持分価値を用いる。
どのIRRを計算しているのかを理解するためには、「誰と誰の間のキャッシュフローを使っているのか」を確認することが重要である。
8.3 その他のプライベート資産
MWRR・IRRはプライベートエクイティ以外でも、異なる時点で資金投入と回収が発生する投資で利用される。
例えば、ベンチャーキャピタル、インフラ、プライベートデット、不動産、セカンダリー投資などである。
ベンチャーキャピタルでは、スタートアップへの投資からIPOやM&Aによる回収まで長期間を要する場合がある。
プライベートデットでは、投資元本に加えて利息や元本返済がキャッシュフローとして発生する。
インフラや不動産では、保有期間中の配当・賃料等による分配と、最終的な資産売却による回収が組み合わされる。
このような投資でも、資金投入と回収の金額・タイミングを反映するMWRR・IRRを利用できる。
9. IRRを見る際の注意点
9.1 IRRが高くても投資倍率が高いとは限らない
IRRは投資期間を強く反映するため、短期間で資金を回収すると高くなりやすい。
例えば、
100を投資して1年後に130を回収
した場合、
投資倍率:1.3倍 IRR:30%
である。
一方、
100を投資して5年後に200を回収
した場合、
投資倍率:2.0倍 IRR:約14.87%
となる。
したがって、
IRRが高い = 最終的な投資倍率も高い
とは限らない。
9.2 未実現価値にも注意する
評価時点で資産が残っている場合、IRR計算にはその資産の評価額が含まれる。
したがって、高いIRRが算出されていても、その一部がまだ実際には回収されていない未実現評価によって構成されている場合がある。
IRRを見る際には、どの程度が実際に回収済みで、どの程度が評価時点の未実現価値なのかを確認する必要がある。
9.3 プライベートエクイティではGross IRRとNet IRRを区別する
プライベートエクイティでIRRを見る場合には、Gross IRRとNet IRRの違いにも注意する必要がある。
基本的なイメージとしては、
Gross IRR = 管理報酬、ファンド費用、キャリー等の影響を控除する前の収益率
Net IRR = これらの費用等の影響を反映した収益率
と考えると分かりやすい。
例えば、投資先への投資額とその回収額から算出するGross IRRは、投資ポートフォリオそのものの収益性を見るために利用される。
一方、LPがファンドへ払い込んだ金額と、ファンドからLPへ分配された金額、評価日時点の持分価値等から算出するNet IRRは、管理報酬、ファンド費用、キャリー等の影響を反映したLP側の投資成果を見るために利用される。
ただし、Gross / Netと、どの階層のキャッシュフローを使うかは完全に同じ意味ではない。実務ではFund-level、Portfolio-levelなどの区分もあるため、プライベートエクイティファンドのIRRを比較する場合には、
GrossかNetか どの階層のIRRか どのキャッシュフローを使っているか
を確認することが重要である。
9.4 プライベートエクイティではIRR以外の指標も併せて見る
プライベートエクイティでは、IRRと併せてTVPI、DPI、RVPIなどの投資倍率も利用される。
TVPI(Total Value to Paid-In)は、実現済みの分配と未実現の残存価値を合わせた総価値を払込済み資本と比較する指標である。
DPI(Distributions to Paid-In)は、実際に投資家へ分配された金額を払込済み資本と比較する。
RVPI(Residual Value to Paid-In)は、まだファンド内に残っている残存価値を払込済み資本と比較する。
IRRは資金投入から回収までの時間を反映する一方、TVPI等は投資資金に対してどれだけの価値を生み出しているかを見る。
そのため、プライベートエクイティのパフォーマンスを評価する場合には、IRRだけでなくこれらの指標を併せて確認することが重要である。
9.5 キャッシュフローのタイミングによってIRRは変わる
IRRはキャッシュフローのタイミングを反映するため、投資先から得られる回収額等が同じであっても、LPからの資金拠出のタイミングが変われば、LPベースのIRRは変化する。
プライベートエクイティでは、Subscription Lineなどの借入を一時的に利用し、LPへのキャピタルコールを後ろ倒しにする場合がある。
この場合、LPから見た資金拠出期間が短くなるため、LPベースのIRRが高くなることがある。
IRRを比較する場合には、単に数値を見るだけでなく、キャッシュフローの発生タイミングにも注意する必要がある。
9.6 IRRが一つに決まらない場合がある
通常の投資では、
最初に資金を投じる → マイナス
その後、投資資金を回収する → プラス
というキャッシュフローになる。
例えば、
投資時:-100 1年後:+30 2年後:+90
のように、当初の資金投入後は回収だけが続く一般的なキャッシュフローでは、IRRは通常、一つの値として求めることができる。
一方、
投資時:-100 1年後:+230 2年後:-132
のように、
資金を出す → 資金を受け取る → 再び資金を出す
という流れになる特殊なケースでは、IRRが複数存在することがある。
この場合、
-100 + 230 ÷ (1+r) - 132 ÷ (1+r)² = 0
となる。
これを整理すると、
100r² - 30r + 2 = 0
となり、
r = 10%
r = 20%
の2つが解となる。
つまり、同じキャッシュフローについて、数学的には10%と20%という2つのIRRが存在する。
ただし、実務上「この投資のIRRは10%と20%の両方である」と単純に報告するわけではない。
ExcelのIRR・XIRR関数も複数の解をすべて一覧表示するわけではなく、指定した推定値を起点に反復計算を行い、収束した解を一つ返す。そのため、複数のIRRが存在するキャッシュフローでは、推定値によって異なるIRRへ収束する場合がある。
このような場合には、単にExcelが返したIRRを機械的に採用するのではなく、キャッシュフローの内容を確認し、IRRだけで投資成果を判断しないことが重要である。必要に応じて、投資倍率や、適切な割引率を設定したNPVなど、他の指標も併せて評価する。
一般的な投資やプライベートエクイティファンドでは、当初に資金拠出があり、その後に分配・回収が行われる形が多いため、通常は大きな問題にならない。ただし、途中で大きな追加拠出が再び発生するなど複雑なキャッシュフローを扱う場合には、IRRが必ず一つに決まるとは限らないことに注意が必要である。
10. まとめ
金額加重収益率(MWRR)は、資金投入や回収の金額とタイミングを反映して投資成果を測定する収益率であり、その代表的な計算方法がIRRである。
IRRでは、いつ、いくら投資したか、いつ、いくら回収したかを一連のキャッシュフローとして扱い、それらを一つの収益率で表す。
基本的な計算では、投資をマイナス、回収をプラスとして並べ、将来のキャッシュフローを投資時点へ割り戻した現在価値の合計が0になる収益率を求める。単純な1回投資・1回回収の場合には、同じ式を変形して「現在の投資額が将来いくらになるか」という形で見ることもできる。
同じ総回収額であっても、より早く資金を回収できた方がIRRは高くなる。また、追加投資や一部回収が複数回発生する場合でも、それぞれのキャッシュフローの金額とタイミングを反映して投資全体の収益率を算出できる。
Excelでは、キャッシュフローが一定間隔で発生する場合にはIRR関数、実際の日付が不規則な場合にはXIRR関数を利用できる。XIRR関数では実際の日数差を使用する一方、年率換算ではうるう年を含む場合でも1年を365日として扱う。
また、IRRやXIRRは単純な割り算によって求めるのではなく、キャッシュフローの現在価値が釣り合う収益率を反復計算によって探す。
評価時点で資産が残っている場合には、その期末時価も評価日のプラスのキャッシュフローとして計算へ含める。
時間加重収益率が外部キャッシュフローの影響を取り除いて運用そのものの成果を測定するのに対し、金額加重収益率はキャッシュフローの金額とタイミングを反映し、実際に投入された資金の投資成果を測定する。
この性質から、投資家自身の投資成果を測る場合のほか、プライベートエクイティ、プライベートエクイティFOF、ベンチャーキャピタル、インフラ、プライベートデット、不動産など、資金投入と回収が異なるタイミングで発生する投資でMWRR・IRRが利用されている。
IRRは数式から入ると理解しにくいが、「いつ、いくら資金を出し、いつ、いくら返ってきたかを、一つの収益率で表したもの」と考えると理解しやすい。
