パッシブ運用(インデックスファンド)の低コスト化が進むなか、各国のコスト水準を比較する際は表面上の「信託報酬」や「経費率(TER/OCF)」だけでは不十分である。年間保有時の主要なコスト負担を把握するには、販売会社やプラットフォームに支払う口座管理料等を含めた流通構造の違いを考慮する必要がある。
本記事では、一時費用(売買手数料、スプレッド、税等)やファンド内部の売買コストを除き、継続的な商品報酬と明示的な販売・プラットフォーム費を合算した「主要な年間継続コスト」を比較基準とする。日本、米国、英国、ドイツ、韓国、中国の6カ国を対象に、自国株指数連動のETFおよび非上場インデックス投信のコスト構造を検証する。
1. 主要6カ国における自国株ETFのコスト比較
| 国 | ETF / 指数 | 主要な年間継続コストの目安(年率) | ETF経費率・信託報酬 |
|---|---|---|---|
| 日本 | iシェアーズ・コア TOPIX ETF(1475) / TOPIX | 約0.05% | 0.0495% |
| 米国 | Vanguard S&P 500 ETF(VOO) / S&P 500 | 約0.03% | 0.03% |
| 英国 | iShares Core FTSE 100 UCITS ETF(ISF) / FTSE 100 | 約0.07%以上(別途プラットフォーム料が発生する場合あり) | 0.07% |
| ドイツ | iShares Core DAX UCITS ETF / DAX | 約0.16%前後 | 0.16% |
| 韓国 | KODEX 200 / KOSPI 200 | 約0.15~0.16% | 総報酬0.15%(直近会計年度の合成総報酬約0.1615%) |
| 中国 | 華泰柏瑞 滬深300ETF(510300) / CSI 300 | 約0.20%前後 | 管理費0.15%+保管費0.05% |
※各国について代表的な商品例を1本取り上げて比較したものであり、各市場における最安商品の比較ではない。主要な年間継続コストの目安は、低コストのオンライン証券等を利用して長期保有する場合の概算(継続的な商品報酬+明示的な販売・プラットフォーム費)。売買時のbid-ask spread、一時的な売買手数料、税金、為替コスト、ファンド内部の有価証券売買コストは含めていない。英国などプラットフォーム料金が別途発生する市場については、利用する販売チャネルによって追加費用が発生する。
2. ETFでは商品コストの差が比較しやすい
ETFは非上場インデックス投信に比べ、販売会社への継続的な報酬をファンド内部に大きく組み込むケースが少なく、商品自体の経費率・信託報酬を横並びで比較しやすい。一方、英国のように証券会社・投資プラットフォーム側で継続的な料金が発生する市場もあるため、ETFであっても経費率だけで完全な投資家負担を把握できるわけではない。
米国
Vanguard S&P 500 ETF(VOO)の経費率は年0.03%と、今回取り上げたETFの中で最も低い。米国市場では巨大なファンド残高による規模の経済が働き、VOOの純資産総額は1兆ドルを超える規模に達している。バンガードをはじめとする大手運用会社間の低価格競争が長年継続していることに加え、VOOのような低コスト商品では12b-1販売報酬が設定されていない。巨大な資産規模と低価格競争の組み合わせが、0.03%という極めて低水準なコストを支えている。
日本
iシェアーズ・コア TOPIX ETF(1475)の信託報酬は約0.0495%まで低下している。米国のVOO(0.03%)との絶対差は約0.02ポイントであり、米国よりは高いものの、日本のTOPIX ETFもかなり低コスト化が進んでいる。大手ネット証券を中心に国内ETFの売買手数料無料化が定着したことで、長期保有時の主要な年間継続コストは商品自体の信託報酬に近づいている。
英国
iShares Core FTSE 100 UCITS ETF(ISF)は、TER単体では0.07%と商品単体ではかなり低コストである。しかし英国では、RDR規制等を背景に投資プラットフォーム利用料や口座管理料が外枠で徴収される料金体系が広く見られる。そのため、ETF単体のTER 0.07%と投資家の年間継続コストは必ずしも一致せず、合算した実際の負担は利用するプラットフォームの体系に依存する。
ドイツ
今回取り上げたiShares Core DAX UCITS ETFのTERは0.16%である。ただし、これはドイツ市場の最安商品ではなく、DAX連動ETFにはXtrackers等で0.09%程度の商品も存在する。したがって0.16%は代表的な大型商品の一例であり、ドイツ市場全体の最低コストを示すものではない。なお、ドイツでは自国株(DAX)連動の低コストパッシブ商品としてETFが中心的な役割を担っている。
韓国
KODEX 200は、公表上の総報酬は年0.15%であり、直近会計年度ベースでその他費用を含めた合成総報酬費用比率は約0.1615%である。直近会計年度の運用報告ではポートフォリオ売買に伴う証券取引費用(0.0283%)の実績も別途発生しているが、他国ETFとの比較基準を統一するため内部売買コストは除外したうえで、表上は約0.15~0.16%水準として取り扱う。
中国
華泰柏瑞 滬深300ETF(510300)は、ファンド内部費用として管理費0.15%、保管費0.05%が明確に分離開示されており、主要な年間継続コストは合計約0.20%となる。今回取り上げた代表商品ベースでは日本や米国より高いものの、絶対水準としては依然として十分に低位な範囲に収まっている。
ETFを比較すると何が分かるか
今回取り上げた代表商品では、米国(約0.03%)、日本(約0.05%)、英国(約0.07%+外付けプラットフォーム費)、韓国(約0.15~0.16%)、ドイツ(約0.16%)、中国(約0.20%)という差が見られる。ただし、これは各国の最安商品比較ではなく、代表的な具体商品同士の比較である。非上場投信ほど販売会社報酬の内包・外付けによる比較の歪みは大きくないため、ETFの方が国際的な商品コストを比較しやすい。ただし英国のようにプラットフォーム費が別途発生する市場もあり、ETFでも経費率だけをそのまま投資家の総負担とみなすことはできない。
3. 非上場インデックス投資信託のコスト比較
| 国 | インデックス投信 / 指数 | 主要な年間継続コストの目安(年率) | 信託報酬・経費率 |
|---|---|---|---|
| 日本 | eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX) / TOPIX | 約0.14% | 0.143% |
| 米国 | Vanguard 500 Index Fund Admiral Shares(VFIAX) / S&P 500 | 約0.04% | 0.04% |
| 英国 | Vanguard FTSE 100 Index Unit Trust / FTSE 100 | 約0.21% | 0.06% |
| ドイツ | ―(DAX連動の個人向けパッシブ商品はETFが中心) | ― | ― |
| 韓国 | 新韓SOL KOSPI200インデックス証券子投資信託 第1号 A-e / KOSPI 200 | 約0.23% | 約0.23% |
| 中国 | 中銀滬深300指数C / CSI 300 | 約0.30% | 管理費0.15%+保管費0.05%+販売サービス費0.10% |
※各国について比較に適した代表的・具体的な商品例を取り上げており、各市場における最安商品を選定した比較ではない。主要な年間継続コストの目安は、継続的な商品報酬に明示的な販売・プラットフォーム費を加えた概算。購入時手数料(韓国の一部商品で設定される最大0.50%程度の手数料等)や短期解約手数料、ファンド内部の有価証券売買コスト等は含めていない。英国の約0.21%という数値は、Vanguard Investorのセルフ運用口座で一定残高以上を保有した場合の具体例であり、利用するプラットフォームによって実際の負担は異なる。
4. 非上場インデックス投信のコスト構造は国によって異なる
非上場インデックス投信では、米国のVanguard 500 Index Fund Admiral Sharesが年0.04%と突出して低い。一方、日本のeMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)は約0.143%、韓国の低コスト商品の一例では約0.23%、中国では約0.30%となっている。ただし、この差をそのまま「運用会社の安さ」の違いと捉えることはできない。国によって、販売会社への報酬やプラットフォーム利用料をファンド内部の費用として負担するのか、投資家が別途外枠で支払うのかが異なるためである。
米国
Vanguard 500 Index Fund Admiral Shares(VFIAX)の経費率は年0.04%と、今回取り上げた非上場インデックス投信の中で突出して低い。米国市場では巨大なファンド残高を背景に固定費を広範な投資家層へ分散できることに加え、大手運用会社間の低価格競争が長年継続している。さらに、VFIAXのような低コスト商品では販売会社への継続的な報酬を大きく組み込まない商品設計が定着している。ファンド単体の経費率だけで見ても、米国は今回比較した6カ国の中で一段低い水準にある。
日本
eMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)の信託報酬は約0.143%である。米国の0.04%と比べると高く映るが、日本の信託報酬には運用会社だけでなく、販売会社や受託会社への報酬が含まれている。すなわち、日本の0.143%は単なる運用会社の取り分ではなく、運用・販売・資産管理を含む継続的な報酬を包括した数値である。ノーロードかつ口座管理料不要のネット証券等で保有する場合、投資家が別途継続的な販売・プラットフォーム費を支払わないケースも多い。したがって、日本の約0.143%と、販売・プラットフォーム費がファンド外に分離されている商品の経費率を単純に比較することはできない。なお、信託報酬以外に監査費用や有価証券売買コスト等が発生し得る点は留意を要する。
英国
Vanguard FTSE 100 Index Unit TrustのOCFは0.06%であり、ファンド単体では日本のeMAXIS Slim 国内株式(TOPIX)より大幅に低い。しかし英国では、ファンド費用とは別にプラットフォーム利用料を支払う料金体系が広く見られる。例えばVanguard Investorのセルフ運用口座で一定残高以上を保有する場合、OCF0.06%に口座管理料0.15%が加わり、年間継続コストは約0.21%となる。 この例では、英国(ファンド単体0.06%、プラットフォーム費込み約0.21%)と日本(信託報酬約0.143%)となり、ファンド単体の費用だけで比較した場合とコスト水準の見え方が逆転する。なお、Vanguard Investorでは£32,000未満の場合は年£48の定額口座料となるため、少額投資では年率換算した負担が0.21%を上回る場合がある。英国の0.21%はあくまで特定プラットフォームを利用した場合の例であり、実際の負担は利用するサービスによって異なるが、ファンド費用と販売・プラットフォーム費が分離されている点は日本との大きな構造差である。
韓国
韓国も、日本と同様に販売会社への報酬をファンド費用に含む商品が存在する。低コスト商品の一例である新韓SOL KOSPI200インデックス証券子投資信託 第1号 A-eでは、総報酬約0.23%のうち、運用会社約0.09%、販売会社約0.10%、その他約0.04%となっており、販売会社報酬がファンド内部から支払われる。一方、未来アセットのKOSPI200インデックス投信C-eのように、総報酬約0.65%のうち販売報酬が約0.45%を占める商品もある。このため韓国では、運用コストそのものだけでなく、販売会社報酬の設定が投資家負担を大きく左右する。
中国
中国では、同一指数に連動する商品であってもコスト差が大きい。中銀滬深300指数Cは、管理費0.15%、保管費0.05%、販売サービス費0.10%の合計0.30%である。一方、工銀滬深300指数Cでは、管理費0.50%、保管費0.10%、販売サービス費0.40%の合計1.00%に達する。同一のCSI 300連動ファンドであっても、管理費や販売サービス費の設定によって投資家負担が大きく異なる点が中国市場の特徴である。
ドイツ
ドイツでは、DAX連動の低コストパッシブ商品としてETFが中心であり、日本や米国のように比較対象として置きやすい代表的な非上場インデックス投信を選定しにくい。この点も、各国で同じインデックス運用であっても、個人投資家に提供される商品の形態が異なることを示している。
比較すると何が分かるか
今回の比較では、米国の非上場インデックス投信が0.04%と突出して低い。日本は約0.14%で米国より高いものの、販売会社報酬まで信託報酬に含まれている。一方、英国ではファンド単体のOCFは0.06%と低いものの、プラットフォーム費が別途発生する場合がある。つまり、非上場インデックス投信を国際比較する際には、「ファンド単体で何%か」だけではなく、「販売・プラットフォーム費をどこで誰が負担しているか」まで精査する必要がある。
5. 実務的総括
ファンドの表面的な信託報酬や経費率(TER/OCF)のみを抽出して各国比較を行うと、各国の実態を見誤るリスクがある。今回取り上げた代表商品の比較では、日本のETF約0.05%、非上場インデックス投信約0.14%はいずれも低コストな部類に位置する。
米国はETF約0.03%、非上場投信約0.04%であり、今回比較した6カ国の中では突出して低コストである。
日本はETF約0.05%、非上場投信約0.14%と、米国には及ばないものの今回の比較では低コストな部類にある。特に日本の非上場投信は販売会社報酬まで信託報酬に含まれているため、ファンド費用と販売・プラットフォーム費が分離されている市場の商品との単純比較は適切ではない。
英国はファンド自体のOCF・TERは低いが、プラットフォーム費が外付けされる場合があり、利用チャネルによって年間継続コストが変わる。
ドイツは低コストの自国株パッシブ商品ではETF中心であり、非上場投信の代表商品を設定しにくい市場構造を持つ。
韓国は日本と同様に販売会社報酬をファンド内部に含む商品がある一方、商品間での販売報酬のばらつきが大きい。
中国は同一指数連動であっても、管理費・保管費・販売サービス費等の設定による商品差が非常に大きい。
以上より、「海外のインデックス投信は安く、日本は高い」と単純に結論づけることはできない。今回比較した6カ国においては、「米国は別格に安いが、日本も販売会社報酬込みで見るとかなり低コスト」という整理が実態に即している。
