アモーヴァ・アセットマネジメント(旧 日興アセットマネジメント)が新オフィスへと移転した。
【運用会社情報】アモーヴァAM、麻布台ヒルズへ本社移転 | ニッキンレポート・投信情報ONLINE アモーヴァ・アセットマネジメント株式会社 本社移転について
アモーヴァは在宅勤務の比率が高いことで知られている。会社としても公式に柔軟な働き方やハイブリッドワークを掲げているが、実際に話を聞いてみても、日常的に在宅勤務を活用する社員が半数以上おり、中には「オフィス出社は月1回程度」という社員もいるようだ。そのため、移転前のオフィスではフロアがかなり空いているように見える日も多かった(※新オフィスへの移転理由が出社率にあると公表されているわけではないが、、)。
日本の大手アセマネの中でも、これほど在宅勤務を積極的に活用し、「毎日全員がオフィスに集まること」を前提としない勤務形態が定着している事例は目を引く。
ここで気になったのは、こうした柔軟な働き方が単なる「働きやすさ」や「福利厚生」にとどまらないのではないか、という点だ。 運用部門のファンドマネージャーやアナリスト、クオンツ、あるいはITエンジニアなど、アセマネ会社の競争力の源泉は専門人材にある。自律して仕事を進められるプロフェッショナルにとって、場所に縛られない環境は勤務先を選ぶ上での大きな魅力になり得る。 公式にそう謳っているわけではないが、柔軟な働き方の維持は、優秀な専門人材の獲得や定着に向けた「人材戦略」としても機能しているのではないか、と個人的には感じている。
では、海外に目を向けるとどうだろうか。
特に米国の大手金融機関や資産運用会社では、ここ数年「RTO(Return to Office:オフィス出社回帰)」を強く推し進める動きが目立つ。「海外のアセマネはほぼフル出社に戻った」という話も耳にするが、実際にはどこまで戻っているのだろうか。
調べてみると、業界全体が一律で週5日フル出社に戻ったわけではなく、「毎日オフィスに集まる会社」から「週4日」「週3日ハイブリッド」、そしてアモーヴァのように「月数回程度の出社もみられる柔軟な働き方」まで、企業ごとにかなりグラデーションがあることが分かる。
1. 海外主要各社の出社方針:3つのアプローチ
海外大手各社について、現在確認できる公式情報や報道などを整理すると、大きく3つのグループに分かれる。
| カテゴリ | 主な該当企業 | 主な出社方針・特徴 |
|---|---|---|
| ① 週5日出社を強く推進・拡大 | Goldman Sachs Fidelity Investments J.P. Morgan |
・金融界でも早期から対面回帰を主導 ・主要な職種や階層を中心に週5日化を推進・拡大 |
| ② 原則「週4日出社」 | BlackRock | ・公式に週4日出社+週1日在宅を規定 ・シニア層や一部部門で高頻度の出社が求められるなど職位差あり |
| ③ ハイブリッド勤務を維持 | Vanguard Capital Group 欧州系大手の一部 |
・週3日出社モデルやセミ・ハイブリッド勤務を維持・公表 ・柔軟性を組織の魅力や人材定着の要素として活用 |
グループ①:週5日出社を強く推進・拡大する企業
伝統的なウォール街のカルチャーを色濃く持つ金融コングロマリットや、対面連携を重視する大手運用会社がここに含まれる。
Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)
大手金融機関の中でも極めて早い段階から週5日出社を強く推進してきた代表格だ。組織カルチャーとして対面での協働や徒弟制度的な人材育成を重視しており、主要な職種を中心にいち早く対面主体の働き方へと舵を切った存在として知られている。
Fidelity Investments(フィデリティ)
従来は「月の半分程度をリモート可能」とする柔軟な制度を導入していたが、オフィス回帰のアクセルを踏み込んでいる。ボストンの約6,200名規模の拠点をはじめとする主要拠点で週5日出社への移行方針が報じられるなど、大規模な対面回帰を進めている(※幹部層については先行してフル出社の対象となっている)。
J.P. Morgan(J.P.モルガン)
ジェイミー・ダイモンCEOのリーダーシップのもと、出社回帰を牽引してきた。幹部層(マネージングディレクター等)に対して週5日出社を求める方針を打ち出した上で、主要な職種・階層を中心に出社日数を増やす方向で管理を進めている。ただし、職種や拠点による一定のグラデーションは残されている。
グループ②:原則「週4日出社」でバランスを取る企業
完全なフル出社(週5日)には踏み切らず、「週4日出社+週1日在宅」を公式ルールとして敷くモデルだ。
BlackRock(ブラックロック)
世界最大の資産運用会社である同社は、公式採用情報等において「週に最低4日のオフィス勤務、週1日の在宅勤務の柔軟性(at least 4 days in the office, flexibility to WFH 1 day)」を明記している。一方で、シニア層や一部のビジネスグループでは、より高い頻度の出社が求められるなど、職位や役割による差もある。
グループ③:ハイブリッド勤務を維持する企業
出社回帰の潮流にあっても一律のフル出社には追随せず、柔軟な勤務形態を継続している大手運用会社も確実に存在する。
Vanguard(バンガード)
公式採用情報でも「majority of crew members(大多数の社員)」を対象としたハイブリッド勤務を明示しており、週3日出社を基本とする求人も確認できる。
Capital Group(キャピタル・グループ)
長期投資とチーム制運用を特徴とする同社は、公式にも大多数のポジションでセミ・ハイブリッド勤務(オフィス勤務と在宅勤務の組み合わせ)を維持する方針をとっており、極端なフル出社義務付けとは一線を画している。
欧州系大手(UBS、Amundi、Allianz等)
欧州の大手運用会社でもハイブリッド勤務を維持する企業が多く見られる。ただし、具体的な出社頻度や在宅勤務の枠組みは、各社の方針、拠点国、職種などによっても大きく異なっており、一律の基準で括ることはできない。
(参考)オルタナティブ・ヘッジファンドの傾向
伝統的なロングオンリー(伝統的資産運用)会社とは異なり、即時的な投資判断と高い情報密度が求められるマルチストラテジー系ヘッジファンドでは、週5日出社を基本とする企業が目立つ。
Point72
アナリストやポートフォリオマネージャーなどの求人票において、「週5日のオフィス勤務(Be in the office five days a week)」を募集要件に明記する事例が見られる。
Citadel
対面での活発な議論やアイデア創出を重視する姿勢を示しており、オフィスでのコラボレーションを重視する企業文化が特徴だ。
2. 企業が出社を求める背景にあるもの
海外メガ運用会社が出社日数を増やす方向へと舵を切る背景には、金融ビジネスならではの事情が存在する。
コラボレーションと情報共有
コラボレーションや情報共有、メンターシップなどの面で、物理的に同じ空間で働くことのメリットを重視する経営陣が増えている。
徒弟制度的な人材育成(OJT・メンターシップ)
市場や投資判断のノウハウ、リスク管理の感覚は、画面越しのミーティングよりも「シニアの立ち振る舞いやフロアの空気を肌で感じる」ことで伝承されやすいという見解が根強く、若手・中堅の育成遅れを危惧する声が背景にある。
情報管理・コンプライアンス上の実務的配慮
金融機関では未公開情報や顧客情報などを扱うため、リモート環境においても厳格な情報管理が求められる。そのため、業務や役割によってはオフィス勤務を重視する判断も考えられる。
3. 職種・階層によるグラデーション
全社方針とは別に、社内での役割によっても出社頻度には濃淡が存在する。
市場・投資判断に近い部門(運用・リサーチ等)& 経営幹部
市場や投資判断との距離が近い職種や、組織を牽引するリーダー層(MD・VPなど)は、一般社員よりも高い出社頻度を求められるケースが目立つ。
テクノロジー & オペレーション(バックオフィス)
ITエンジニアや決済・事務管理部門などでは、業務のデジタル化が進んでいることに加え、中途採用における競争力(人材獲得のしやすさ)を考慮し、ハイブリッド勤務を維持・容認するケースがある。
4. 各社の働き方の違いを見て感じること
海外大手資産運用会社において「出社回帰」の動きが進んでいることは確かだ。コロナ禍初期のような「全社的なフルリモート推奨」という環境は後退し、オフィス出社が働き方の主軸へと戻ってきた。 しかし、海外各社の実態を仔細に見れば、「業界全体が一律に週5日フル出社へ移行した」わけではない。
週5日出社を強く推進・拡大する企業(Goldman Sachs、Fidelity、代表的ヘッジファンド等) 週4日を軸に、シニア層や一部部門で引き締める企業(BlackRock) 週3日出社やセミ・ハイブリッドを維持する企業(Vanguard、Capital Group等) 在宅勤務を大幅に活用し、月数回程度の出社もみられる柔軟な働き方(アモーヴァの事例)
このように、同じ資産運用業界であっても各社が設定する勤務モデルにはかなり幅がある。 対面での偶発的な情報共有や現場での育成を重視し、出社頻度を高めて一体感を作ろうとする企業がある一方で、アモーヴァのように柔軟な働き方を残すことで、自律的な環境を好む専門人材を引きつけようとするアプローチも十分に考えられる。
出社日数を増やすのが正解なのか、柔軟性を残すのが正解なのかは、各社が求める人材像や組織カルチャーによって異なる。海外の動向と国内のユニークな事例を並べてみると、オフィスをどう使うかという判断の中に、それぞれの会社の人材戦略が自然とにじみ出ているのが興味深い。
