アセットマネジメント会社(資産運用会社、通称アセマネ)のフロント・ミドル業務において、OMS(Order Management System:注文管理システム)は運用オペレーションの中核を担うシステムの一つである。
ただし、現在のフロントシステムは単純な注文管理だけにとどまらない。ポートフォリオ管理、コンプライアンスチェック、執行、約定管理、リスク分析、ポストトレードなどまで機能範囲が広がっており、OMSとEMS(Execution Management System:執行管理システム)を一体化したOEMS(Order and Execution Management System)として提供される製品もある。
本記事では、主要OMS・投資管理プラットフォームの特徴と、国内外の実際の導入・活用事例、さらに大手アセットマネジメント会社で複数のシステムが併用される理由について整理する。
1. 代表的なOMS/投資管理プラットフォーム
1.1 BlackRock Aladdin
BlackRock Aladdinは、ポートフォリオ管理、リスク管理、トレーディング、コンプライアンス、オペレーションなど、投資プロセスを広くカバーする統合型の投資管理プラットフォームである。
もともとはBlackRock自身の資産運用を支えるために構築・発展してきたシステムであり、BlackRock自身も利用している。一方、現在ではBlackRock以外の資産運用会社、年金基金、保険会社、銀行などにも提供されている。
OMS・OEMSとしての注文・執行管理だけを見るシステムというより、フロントからミドル、リスク管理までを含む広範な投資管理基盤と考えた方が実態に近い。
1.2 Charles River IMS
Charles River IMSは、State Street傘下のCharles River Developmentが提供するフロント・ミドル向け投資管理プラットフォームである。
ポートフォリオ管理、注文管理、電子取引、コンプライアンス、IBOR(Investment Book of Record)、ポストトレードなどを一つの環境で扱うことができ、OMSとEMSを統合したOEMSとしての機能も持つ。
大手運用会社におけるマルチアセット運用や、プレトレード・コンプライアンス、グローバルな注文管理基盤として利用される事例が多い。
1.3 Bloomberg AIM
Bloomberg AIM(Asset and Investment Manager)は、Bloombergが提供するバイサイド向けのマルチアセット注文・投資管理プラットフォームである。
ポートフォリオ管理、注文管理、トレードコンプライアンス、ポストトレードなどをカバーし、Bloomberg Terminal、PORT Enterprise、EMSX、FXGOなど、Bloombergが持つ他の分析・執行サービスと組み合わせて利用できることが特徴である。
BloombergではAIM単体だけでなく、市場データ、分析、注文管理、電子取引などをBloombergのエコシステム内で接続できる。
1.4 SmartBridge Advance(NRI)
SmartBridge Advanceは、野村総合研究所(NRI)が提供する資産運用会社・機関投資家向けのフロント業務支援プラットフォームである。
OMS、フロントポジション・資金管理、コンプライアンスチェック、ポストトレードなどを統合し、日本の取引制度、市場慣行、決済制度、投信計理などへの対応を強みとする。
野村アセットマネジメントの導入事例では、海外ベンダー製品も検討したうえで、日本の取引制度や市場慣行、投信計理への理解などがSmartBridge Advanceの選定理由として説明されている。
2. 国内主要運用会社・機関投資家等の導入・活用事例
OMSや投資管理システムについて、各運用会社が利用しているすべての製品を公表しているわけではない。そのため、外部から各社のシステム構成を完全に把握することは難しい。
一方、ベンダーのプレスリリース、導入事例、運用会社・金融グループ・機関投資家自身の開示資料などから、一部の国内大手については実際の採用・活用状況を確認できる。
| 国内主要運用会社・機関投資家等 | 採用・活用システム | 主な公表内容・ソース |
|---|---|---|
| 野村アセットマネジメント | Charles River IMS | 株式から国内外債券、為替、デリバティブなどへ利用範囲を拡大。その後クラウド版へ移行し、ポストトレード業務にも利用を拡張。(Charles River) |
| 野村アセットマネジメント | SmartBridge Advance | 短期資産OMSとして導入。日本の制度・市場慣行・投信計理への対応などを選定理由として説明。(NRI 導入事例) |
| MUFGグループ | BlackRock Aladdin | Aladdinを活用した資産運用会社向けBPOサービスを展開。フロントシステムとMUFGのミドル・バック業務を接続し、業務効率化と資産運用・管理の高度な分業を支援。(MUFG ディスクロージャー誌) |
| アモーヴァ・アセットマネジメント(旧:日興アセットマネジメント) | Bloomberg AIM / EMSX / TSOX / BTCA / PORT / BQuant | AIMを注文管理業務に利用。株式・債券の執行管理、取引コスト分析、ポートフォリオ・リスク分析などにもBloomberg製品を活用。後年にはBQuantとAIM・PORTを連携した分析事例も公表。(Bloomberg 2018年公表資料) |
| 三井住友トラスト・アセットマネジメント | BlackRock Aladdin | 投資管理基盤として採用を決定。注文・執行管理、大規模ファンドのリバランス、コンプライアンス、電子発注・マッチング、リスク管理などに利用予定。(BlackRock プレスリリース) |
| ニッセイアセットマネジメント | Charles River IMS | 外国株式・国内債券の投資管理およびフロントオフィス業務に導入。(The TRADE) |
| 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) | BlackRock Aladdin | ポートフォリオ全体のリスク管理・分析に利用。トラッキングエラー、VaR、ストレステストなどを実施。 |
| 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) | Bloomberg AIM | 自家運用に関わる統合運用管理基盤としてAIM、PORT Enterprise、BTCAなどを採用。(Bloomberg プレスリリース) |
2.1 野村アセットマネジメント ― 複数OMSを併用する代表例
野村アセットマネジメントは、複数システムを併用していることが公表資料から比較的明確に確認できる例である。 Charles River IMSについては、2008年からCharles Riverの顧客であり、当初の株式から国内外の債券、為替、デリバティブなどへ利用範囲を拡大した。 2019年には債券、株式、為替など複数資産・複数地域を対象としてクラウド版Charles River IMSへ移行し、2021年にはポストトレード業務にも利用範囲を広げている。 一方、NRIのSmartBridge Advanceについても短期資産OMSを導入している。 NRIの導入事例では、海外ベンダー製品も検討したものの、日本の取引制度や市場慣行、投信計理への理解などを理由としてSmartBridge Advanceを選択した経緯まで紹介されている。 一つの大手運用会社の中でも、すべての資産・業務を単一のOMSへ集約するとは限らないことが分かる事例である。
2.2 MUFGグループ ― Aladdinを活用したBPO基盤
MUFGについては、他の事例とは少し性格が異なるため注意が必要である。 MUFGはBlackRockのAladdinを活用し、資産運用会社向けのミドル・バックオフィスBPOサービスを展開している。 MUFGの資料では、Aladdinを通じて資産運用会社のフロントシステムとMUFGのミドル・バックオフィス業務をシームレスにつなぐことで、業務効率化を実現し、資産運用と管理の高度な分業を支える仕組みが示されている。
2.3 アモーヴァ・アセットマネジメント ― Bloomberg AIM
旧・日興アセットマネジメントは、2025年9月1日付でアモーヴァ・アセットマネジメント株式会社へ社名変更した。 Bloombergが2018年に公表した資料では、旧・日興アセットマネジメントがBloomberg AIMを注文管理業務に利用していることが明記されている。 あわせて、株式取引の執行管理にEMSX、債券取引の執行管理にTSOX、取引コスト分析にBTCA、ポートフォリオ・リスク分析にPORTを活用しており、注文管理から執行、分析まで複数のBloomberg製品を組み合わせたフロント業務基盤を構築していたことが分かる。
2.4 三井住友トラスト・アセットマネジメント ― Aladdin
三井住友トラスト・アセットマネジメントは2025年、BlackRockのAladdinを投資管理基盤として採用することを決定した。 BlackRockの公表資料では、注文・執行管理、大規模ファンドのリバランス、コンプライアンス管理、電子発注・マッチング、高度なリスク管理などを利用すると説明している。 なお、公表時点では「Aladdin will support」と将来形で説明されているため、対象業務すべてについてすでに移行が完了したという意味ではない。
2.5 ニッセイアセットマネジメント ― Charles River IMS
ニッセイアセットマネジメントについては、2007年にCharles River IMSの導入完了が公表されている。 当時の公表資料では、外国株式および国内債券の運用業務を支えるシステムとしてCharles River IMSを利用し、55人以上のユーザーが使用していたとされる。 さらに、初期導入後には他の資産クラスへの展開やFIXの導入も検討されていた。 古い導入事例ではあるものの、日本の大手資産運用会社におけるCharles River IMSの具体的な利用を確認できる公開事例である。
2.6 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)― AladdinとBloomberg
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も、複数の大規模な投資管理・リスク管理プラットフォームを用途に応じて利用している例である。 GPIF自身の2018年度運用報告書では、ポートフォリオ全体のリスク分析にAladdinを利用し、トラッキングエラー、VaR、ストレステスト、株価・為替変動時の損益シミュレーションなどを行っていることが明記されている。 さらに、2024年度の業務実績資料でも、AladdinとBarra Oneを複数のリスク分析ツールとして利用していることが確認できる。したがって、Aladdinの利用は2018年度当時だけのものではなく、その後もリスク管理基盤の一つとして利用されていることが分かる。 また2024年には、自家運用に関わる資産運用業務についてBloomberg AIM、PORT Enterprise、BTCAなどを採用した。 この事例からも、AladdinとBloomberg AIMを単純な二者択一の競合製品として見るのではなく、リスク分析、ポートフォリオ管理、自家運用など、業務目的に応じて複数のプラットフォームを組み合わせる構成が存在することが分かる。
3. 海外大手運用会社の導入事例
海外でも、AladdinやCharles River IMSを世界的大手運用会社が利用していることが公表されている。 AUMの円換算は執筆時点の為替レートを用いた概算であり、AUMの基準日と為替換算日は必ずしも一致しない。そのため、円換算額は各社の規模感を把握するための参考値である。
| 海外大手運用会社 | 採用システム | 主な公表内容・ソース |
|---|---|---|
| BlackRock AUM:約15.3兆ドル(約2,400兆円) |
BlackRock Aladdin | AladdinはもともとBlackRock自身の運用・リスク管理のために開発され、現在も自社の投資管理基盤として利用。 |
| Franklin Templeton AUM:約1.8兆ドル(約280兆円) |
BlackRock Aladdin | パブリック市場の資産クラスを横断する投資管理テクノロジーの共通基盤としてAladdinを選定。(Franklin Templeton) |
| Santander Asset Management AUM:約2,900億ユーロ(約52兆円) |
BlackRock Aladdin | 2019年にBlackRockとAladdin導入契約を締結し、2020年に欧州での導入完了を発表。 |
| Legal & General Asset Management AUM:約1.2兆ポンド(約250兆円) |
Charles River IMS | グローバルトレーディング業務をCharles River IMSへ集約。インデックス、LDI、株式、債券、マルチアセットなどを対象。(Charles River) |
| Vanguard AUM:10兆ドル超(約1,570兆円超) |
Charles River IMS | 課税対象マネーマーケットファンドの運用管理をCharles River IMSへ統合。(Charles River) |
| Janus Henderson Investors AUM:約5,000億ドル(約79兆円) |
Charles River IMS | Janus CapitalとHenderson Groupの統合後、共通投資プラットフォームとしてCharles River IMSを採用。(Charles River) |
| Aon Bloomberg事例上:AUM 3.5兆ドル(約550兆円)※ |
Bloomberg AIM / PORT / Data License / Bloomberg Terminal | OCIO事業のグローバル展開を支える投資管理基盤としてAIMを中核に採用。PORT Enterpriseなどと統合。(Bloomberg) |
※Aonについて、Bloombergのケーススタディでは「3.5兆ドルのAUM」と紹介されている。一方、Aon自身の2026年資料では、3.5兆ポンドの資産について助言し、1,540億ポンドを運用していると区別している。そのため、一般的な資産運用会社の裁量運用AUMと単純比較することはできない。
3.1 BlackRock ― Aladdin
Aladdinを語るうえで最大のユーザーは、開発元であるBlackRock自身である。 BlackRockはAladdinをもともと自社の投資管理・リスク管理のために構築し、その後外部顧客向けにも展開してきた。
AUM:約15.3兆ドル(約2,400兆円)
世界最大級の資産運用会社自身が利用する投資管理基盤であることは、Aladdinの大きな特徴である。
3.2 Franklin Templeton ― Aladdin
Franklin Templetonは2024年7月、パブリック市場の資産クラスを横断する投資管理テクノロジーの共通基盤としてBlackRock Aladdinを選定した。
AUM:約1.8兆ドル(約280兆円)
Aladdin上にIBOR(Investment Book of Record)を構築し、投資ライフサイクルを一つのプラットフォームで支える一方、Franklin Templeton傘下の各運用チームが持つ独自の投資プロセスについては維持する方針としている。
移行は2025会計年度から複数年かけて段階的に行う計画として発表されたため、2024年の発表時点で全社移行が完了していたわけではない。
BlackRock自身と資産運用ビジネスで競合する大手運用会社がAladdinを選定していることは、AladdinがBlackRock社内だけのシステムではなく、外部運用会社向けの投資管理プラットフォームとして展開されていることを示す分かりやすい事例である。
3.3 Santander Asset Management ― Aladdin
Santander Asset ManagementもAladdinを利用する大手運用会社である。
AUM:約2,900億ユーロ(約52兆円)
Santander Asset Managementは2019年にBlackRockとAladdin導入契約を締結し、2020年には欧州での導入完了を発表した。
公表資料では、各市場における一貫性、業務効率、オペレーショナルスケール、リスク・リターン分析、レポーティングなどの高度化が目的として挙げられている。
Aladdinについては、Franklin Templetonだけではなく、
BlackRock:約2,400兆円
Franklin Templeton:約280兆円
Santander Asset Management:約52兆円
という世界的大手で利用事例を確認できる。
3.4 Legal & General Asset Management ― Charles River IMS
英国を代表する大手運用会社Legal & General Asset Managementは、Charles River IMSの代表的な大規模ユーザーである。
AUM:約1.2兆ポンド(約250兆円)
2019年にはグローバルトレーディング業務をCharles River IMSへ集約すると発表した。 対象となる運用戦略は、インデックス、LDI(Liability Driven Investment)、株式、債券、マルチアセットなど広範囲に及ぶ。 それ以前からCharles River IMSのプレトレード・ポストトレードコンプライアンス機能を利用しており、そこからクロスアセットの注文管理まで利用範囲を広げた事例である。
3.5 Vanguard ― Charles River IMS
世界最大級の資産運用会社VanguardもCharles River IMSを利用している。
AUM:10兆ドル超(約1,570兆円超)
2020年、Vanguardは課税対象マネーマーケットファンドの運用管理をクラウド版Charles River IMSへ統合した。 公表資料によれば、プレトレードからポストトレード、コンプライアンスまでCharles River IMSを利用するとともに、IBORによってポートフォリオマネージャーやトレーダーがリアルタイムのキャッシュ・ポジション情報を利用できる構成となっている。 ただし、この事例は「Vanguardのすべての資産運用をCharles River IMSで行っている」という意味ではない。公開資料から確認できるのは、課税対象マネーマーケットファンドへの利用である。 大手運用会社では資産クラスや運用戦略ごとに異なるシステムを利用している場合も多いため、導入事例を見る際には利用範囲にも注意する必要がある。
3.6 Janus Henderson Investors ― Charles River IMS
Janus Henderson InvestorsもCharles River IMSを利用する世界的大手運用会社である。
AUM:約5,000億ドル(約79兆円)
Janus Capital GroupとHenderson Groupの統合後、複数地域にまたがる共通投資プラットフォームとしてCharles River IMSを採用した。 公表資料では、意思決定支援、業務効率化、フロントオフィスの生産性向上を目的として、Charles River IMSとMSCIのポートフォリオ・リスク分析を組み合わせる構成が説明されている。 これは、M&Aによって異なるシステムや業務プロセスを抱えることになった大手運用会社が、共通プラットフォームへ統合していく事例としても興味深い。
3.7 Aon ― Bloomberg AIM
Aonは、OCIO(Outsourced Chief Investment Officer)事業のグローバル展開を支える投資管理基盤としてBloombergのBuy-Side Solutionsを採用している。
その中核となるのがBloomberg AIMであり、PORT Enterprise、Data License、Bloomberg Terminalなどと統合した投資管理環境を構築している。BloombergはAIMをこのソリューションの「foundation」と位置付けており、AonのOCIO事業における業務標準化、自動化、グローバルな拡張性の向上に活用されている。(Bloomberg)
Bloombergのケーススタディでは、Aonについて3.5兆ドルのAUMを持つ企業として紹介している。
一方、Aon自身の2026年の資料では、3.5兆ポンドの資産について投資助言を行い、1,540億ポンドを運用していると説明している。 そのため、Bloombergが記載する3.5兆ドルをBlackRockやFranklin Templetonなどの裁量運用AUMと同じ定義で単純比較することはできない。 それでも、Aonが巨大な機関投資家向け投資・OCIO事業を支える基盤としてBloomberg AIMを採用し、PORT Enterpriseなど複数のBloomberg製品を組み合わせていることは、Bloomberg AIMの大規模な海外利用事例として参考になる。
4. なぜ「複数のシステム」が併用されるのか
ここまでの実例を見ると、大手アセットマネジメント会社だからといって、必ず一つの巨大なOMSですべての業務を処理しているわけではないことが分かる。
取り扱う資産クラスや地域、運用戦略が多い巨大運用会社では、複数のOMSや投資管理システムが併存する場合がある。
4.1 膨大な移行コストとインターフェース再構築
「OMSを一つに統一する」ということは、単に新しいソフトウェアを導入することではない。
OMSは周辺の多数のシステムと接続しているため、変更する場合には、ブローカーとの接続、バックオフィスへの約定データ連携、投信計理・NAV算出システムとの接続、コンプライアンスルール、外部ミドルシステム、データベンダー、リスクシステムなど、多数のインターフェースを再構築する必要がある。
さらに過去データの移行、ユーザー教育、業務フローの変更、並行稼働、テストなども必要になる。
長年安定稼働しているシステムであれば、「理論的には一本化した方がきれい」であっても、そのために負担するコストやオペレーショナルリスクの方が大きい場合もある。
4.2 アセットクラスや運用戦略による違い
株式、債券、為替、デリバティブ、短期資産などでは、必要となる注文管理や執行の仕組みが異なる。
さらに同じ株式でも、ファンダメンタルズ型のアクティブ運用と、インデックス運用・クオンツ運用では要求される機能が異なる。
インデックス運用では大量のバスケット注文、リバランス、自動発注、執行効率、STP(Straight Through Processing)などが特に重要になる一方、アクティブ運用ではポートフォリオマネージャーとトレーダーの意思決定やコンプライアンスチェックなど、別の機能が重要になることもある。
そのため、資産クラスや運用部門ごとに異なるシステムが選ばれる場合がある。
4.3 M&Aの影響
資産運用業界では企業の合併や買収が多い。
しかし「会社が統合されたので、翌日からすべての運用システムも統一する」ということは現実的ではない。
旧会社ごとに異なるOMS、業務フロー、データモデル、コンプライアンスルール、ブローカー接続を持っているため、統合には長期間を要する。
Janus Henderson Investorsが企業統合後の共通投資プラットフォームとしてCharles River IMSを採用した事例は、この問題を分かりやすく示している。
4.4 リージョン・拠点ごとの違い
グローバル運用会社では、ニューヨーク、ロンドン、東京、シンガポールなど複数の拠点で運用・トレーディングを行う。
市場インフラ、ブローカー、規制、取引慣行、決済制度などが地域によって異なるため、地域ごとに異なるシステムが利用されることもある。
一方、Charles River IMSやAladdinなどのグローバルプラットフォームを利用し、各地域の業務を共通基盤へ集約する動きも存在する。
5. OMSとEMSの境界線とOEMSへの進化
従来、OMSとEMSは比較的明確に区別されていた。 OMSはポートフォリオマネージャーからトレーダーへの注文管理、コンプライアンスチェック、約定管理などを担い、EMSは市場・ブローカーへの注文ルーティングやアルゴリズム執行、流動性へのアクセスなどを担うという構成である。 典型的には、
ポートフォリオ管理 → OMS → EMS → ブローカー・市場
という流れになる。 しかし現在では、この境界はかなり曖昧になっている。
Charles River IMSはOMSとEMSの機能を一体化したOEMSとして提供されており、ポートフォリオ管理、注文管理、電子取引、コンプライアンス、ポストトレードなどを一つのプラットフォーム上で処理できる。
Bloombergについても、AIMだけで注文・投資管理を行うだけでなく、EMSX、FXGOなどの執行サービス、PORT Enterpriseなどを組み合わせることで、ポートフォリオ管理から注文管理、執行、分析までを接続できる。
Aladdinも同様に、単純なOMSではなく、投資判断、リスク管理、ポートフォリオ管理、トレーディング、コンプライアンス、オペレーションなどを含む統合投資管理プラットフォームへ発展している。
このため現在では、「どのOMSを使っているか」だけでは各社のフロントシステム構成を正確に表現できないケースも多い。 重要なのは、ポートフォリオ管理、OMS、EMS、リスク管理、コンプライアンス、IBOR、ポストトレード、バックオフィスなどをどの製品が担当し、それらをどのように接続しているかという全体のアーキテクチャである。
6. 大手運用会社のシステム戦略は一様ではない
ここまで見ると、Aladdin、Charles River IMS、Bloomberg AIMなどを利用している会社には、世界的大手運用会社が多数含まれている。
しかし、運用会社のシステム構成は外部からすべて確認できるわけではなく、Aladdin、Charles River IMS、Bloomberg AIMなどの著名なパッケージ製品だけで各社の運用基盤が構成されているわけでもない。自社独自のシステムや分析・トレーディング基盤を発展させてきた事例も存在する。
6.1 Wellington Management ― 高度なグローバルトレーディング機能
Wellington Managementは、高度なグローバルトレーディング機能を競争力の一つとしている世界的大手運用会社である。
同社は公式サイトで、自社のグローバルトレーディング機能について「leading-edge trading platform」を提供していると説明している。
また、データサイエンスを活用した取引分析、強固なリスク管理インフラ、ブローカー・ディーラーとの関係などについても、グローバルトレーディング機能の特徴として紹介している。
Wellington Management
AUM:1兆ドルを大きく超える規模
年間取引額:13兆ドル超(2026年6月末時点)
公式サイトで「leading-edge trading platform」を提供すると説明
ただし、公開資料からは、このトレーディングプラットフォームが全面的な自社開発OMSなのか、外部製品をどの範囲で組み合わせているのかまでは確認できない。
したがって、Wellingtonについて「AladdinやCharles River IMSなどを利用していない」「自社開発OMSだけを利用している」と断定することはできない。
一方、巨大な取引規模を処理するトレーディング基盤、データサイエンス、リスク管理などを含むグローバルトレーディング機能そのものを競争力として位置付けている点は、大手運用会社のシステム戦略を考えるうえで興味深い。
6.2 Fidelity Investments ― 自社開発OMSが報じられた事例
Fidelity Investmentsには、OMSそのものを自社開発していたことが報じられた歴史的な事例がある。
2002年のRisk.netの記事では、プロジェクトに詳しい関係者の説明として、Fidelityが**「internally developed order management system(自社開発の注文管理システム)」**を利用していたと報じられている。
当時Fidelityは、債券取引についてFIXを利用した電子化を進めており、注文、執行、アロケーション、コンファメーションなどの取引ライフサイクルを外部取引先と接続していた。
Fidelity Investments
2002年の業界報道で「自社開発OMS」の利用を確認
FIXにより外部取引先との注文・約定等を電子接続
ただし、この情報はFidelity自身による公式発表ではなく、Risk.netが関係者情報として報じたものである。
また、20年以上前の事例であるため、現在のFidelityが同じOMSを利用していることを示すものでもない。
それでも、巨大運用会社が市販パッケージを単純に導入するだけでなく、OMSそのものを自社開発し、外部市場や取引先との接続を構築するシステム戦略が実際に存在したことを示す事例として興味深い。
6.3 OMSが運用成績を決めるわけではない
AladdinやCharles River IMSなどの高機能なプラットフォームを導入すること自体が、運用成績を保証するわけではない。
OMSの重要な役割は、ポートフォリオマネージャーやトレーダーが決定した投資戦略を正確かつ効率的に実行し、コンプライアンス違反やオペレーショナルリスクを抑え、大量の取引を安定して処理できる環境を提供することである。
実際の運用会社では、Aladdinのような大規模統合プラットフォームを利用するケース、Charles River IMSをグローバルなフロント・ミドル基盤として利用するケース、Bloomberg AIMとBloombergの市場データ・分析・執行基盤を組み合わせるケース、日本市場に特化したSmartBridge Advanceを利用するケース、Wellingtonのように高度なトレーディング機能を発展させるケース、Fidelityの過去事例のようにOMS自体を自社開発するケースなど、さまざまな形が存在する。
大手アセットマネジメント会社ほど、扱う資産クラス、ファンド数、地域、取引量、規制、既存システムが複雑になるため、「世界的に有名なOMSを一つ導入すれば最適」という単純な問題ではない。
重要なのは製品名そのものではなく、自社の運用戦略や業務プロセスに適合し、ポートフォリオ管理、注文管理、執行、コンプライアンス、リスク管理、IBOR、ポストトレード、バックオフィスまでをどのように接続するかという全体設計である。
