アセットマネジメント業界において「コンサル」という単語は日常的に使用される用語である。これは主に年金基金等の機関投資家を顧客とするインベストメント・コンサルタント(運用コンサルティング会社)を指す。機関投資家向けビジネスにおいて、彼らの機能と影響力を構造的に把握することは実務を遂行する上での前提条件となる。本稿では、コンサルタントの役割、業界構造、および投資一任契約獲得におけるゲートキーパーとしての実態を記録する。
1. インベストメント・コンサルタントの位置づけ
年金基金の運用体制は、組織規模や方針によって異なる。大規模な公的年金や企業年金が高度な専門チームを内部に擁する一方、専任スタッフの人数が限られる基金も存在する。しかし規模の大小を問わず、多くの基金はインベストメント・コンサルタント(運用コンサルティング会社)を起用している。
インベストメント・コンサルタントは、単なる実務リソースの補完にとどまらず、運用方針や資産配分、運用会社の選定・評価、運用状況のモニタリングなどについて、基金に専門的な助言を提供する。これにより、基金自身だけでは得にくい幅広い運用戦略や市場に関する知見を活用し、運用に関する意思決定やガバナンスの高度化を支援する。
特に運用会社の選定・評価においては、コンサルタントが候補となるアセットマネジメント会社(運用会社)の運用実績、運用体制、投資プロセス、リスク管理体制などを分析・評価し、その結果を基金に報告・助言することがある。ただし、運用会社の選定や運用方針の最終的な意思決定は基金側が行う。
2. 国内機関投資家が主に使用しているコンサルタント一覧
| 分類 | 主な企業 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 外資系・総合型 | Mercer(マーサー) | グローバルな運用リサーチ、年金・資産運用コンサルティング |
| 外資系・総合型 | WTW | 年金数理、退職給付、資産運用、リスク分析など幅広く対応 |
| 外資系・運用型 | Russell Investments | マルチマネージャー運用、OCIO(外部CIO)など |
| 外資系・オルタナティブ特化 | Cambridge Associates | PE、VC、インフラ等のオルタナティブ投資に強み |
| 外資系・運用会社選定型 | bfinance | 運用会社サーチ、選定、ベンチマーキング、手数料分析等 |
| 日系・証券/リサーチ系 | 野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング(NFRC) | 企業年金・公的年金向け資産運用コンサルティング、運用商品・マネージャーリサーチ |
| 日系・独立系 | R&I | 運用評価、年金・資産運用関連のリサーチ・コンサルティング |
| 日系・独立系 | IICパートナーズ | 年金制度・年金数理、DB年金の資産運用コンサルティング |
| 日系・信託銀行系 | 三菱UFJ信託銀行/三井住友信託銀行/みずほ信託銀行 | 年金制度・資産運用・資産管理等を含む総合的な年金サービス |
3. コンサルタントの主要な実務機能
コンサルタント会社が担う機能は多岐にわたる。アセットマネジメント会社側の業務にも直結する主要な役割を以下に記録する。
政策アセットミックスの策定支援 ALM(資産・負債総合管理)分析などを通じて、年金の将来の給付義務や財政状況、許容できるリスク水準、必要な運用収益率などを分析する。その結果を踏まえ、年金基金の運用目的やリスク許容度に応じた政策的資産構成割合(政策アセットミックス)の策定を支援する。
マネージャー・セレクション(運用会社の選定) 年金基金が新たな運用委託を行う際に、運用会社・運用戦略の選定を支援する。RFP(提案依頼書)の作成支援、候補となる運用会社・運用戦略の定性・定量評価、デューデリジェンス、ショートリストの絞り込み、最終プレゼンテーション(ビューティコンテスト)における評価・意思決定支援などを行う。
継続的なモニタリング・評価 運用委託後も、四半期・年次などのタイミングで運用実績やリスクを継続的に評価する。パフォーマンスだけでなく、当初の運用哲学・投資プロセスからの逸脱(スタイルドリフト)、運用体制の変更、ファンドマネージャー等のキーパーソンの交代などについても確認する。重大な問題が認められた場合には、基金に対して運用会社・運用戦略の見直しや入替えを提言することがある。
ガバナンス・受託者責任の支援 ESGやスチュワードシップ活動を含む運用方針の策定、運用状況のモニタリング、年金理事会等への報告・説明などを支援する。基金が専門的な情報に基づいて適切な意思決定を行えるよう支援し、基金側の運用ガバナンスや受託者責任の遂行をサポートする。
なお、コンサルタントはあくまで分析・助言を行う立場であり、運用方針の決定や運用会社の最終的な選定責任を負うものではない。最終的な意思決定は年金基金側が行う。
4. 投資一任契約獲得におけるコンサルタントの重要性
アセットマネジメント会社が年金基金から新規の投資一任契約を獲得する際、コンサルタントによる運用会社・運用戦略の評価や推奨が重要な意味を持つケースは多い。 特に、コンサルタントが運用会社の選定プロセスに関与する年金基金では、コンサルタントによる調査・評価が、RFPの候補先の選定や基金側の意思決定に影響することがある。 ただし、コンサルタントの利用や、その推奨を受けることが運用会社選定の必須条件というわけではない。基金が独自に運用会社を選定するケースや、既存の取引関係などを通じてアセットマネジメント会社が基金と直接交渉し、新規マンデートを獲得するケースも存在する。 したがって、コンサルタントは法的・制度的な意味での「ゲートキーパー」ではないものの、運用会社選定において大きな影響力を持ち得る専門的なアドバイザーと捉えるのが適切である。
受託者責任・説明責任との関係 年金基金の理事や事務局は、加入者や母体企業等に対して、運用方針や運用会社選定について適切な説明を行う必要がある。そのため、専門的な第三者であるコンサルタントから分析・評価・助言を受けることで、運用会社の選定プロセスや意思決定の客観性・合理性を高めることができる。 ただし、コンサルタントの助言を受けたこと自体によって、基金の受託者責任が「担保」されるわけではない。コンサルタントの助言を踏まえて最終的な判断を行い、その判断について適切に説明する責任は基金側にある。
コンペティションにおけるコンサルタントの影響 コンサルタントが選定プロセスに関与する場合、候補となる運用会社について、独自のリサーチやデータベースを用いて運用実績、投資プロセス、運用体制、リスク管理などを分析・評価することがある。 そのため、アセットマネジメント会社にとって、コンサルタントのリサーチ部門からどのように評価されているかは、年金営業上の重要な要素となる。コンサルタントから高い評価を得ている運用会社・運用戦略は、基金がRFPを実施する際の候補として検討される可能性が高まる。 ただし、「コンサルタントから高評価を得ていなければRFPに参加できない」と一律に決まっているわけではない。RFPの候補選定方法やコンサルタントの関与度合いは、年金基金や案件によって異なる。
アセマネ側の対応体制(コンサルタント・リレーション) こうした市場構造を背景に、アセットマネジメント会社では、年金基金への直接営業とは別に、コンサルタントとの関係構築を専門に担当する「コンサルタント・リレーション(Consultant Relations)」の機能を設けている場合がある。 コンサルタント・リレーション担当者は、コンサルタントのリサーチ担当者に対して、自社の運用戦略、投資プロセス、運用チーム、リスク管理体制、運用実績などを継続的に説明する。 これは単に「自社商品を売り込む」という活動ではなく、コンサルタント側の運用会社・運用戦略の評価に必要な情報を提供し、自社の運用能力や運用戦略について正しく理解・評価してもらい、選定候補となる機会を確保するための活動と位置づけられる。 このため、年金向けビジネスを行うアセットマネジメント会社にとって、基金への直接営業だけでなく、コンサルタント・リレーションも重要な営業・マーケティング機能となっている。
